Cell と Nature はオンライン発表された時点で目を通すようにしているが、3月4日オンライン掲載された3編の論文の全てが中国からの論文だったのに驚いた。3月5日に掲載された1編も中国発で、これを見ても中国科学の躍進がわかる。3月9日に主に医療開発分野について中国の躍進を論文から見るジャーナルクラブを開催することもあって、3月4日 Cell に発表された論文の全てを順番に紹介することにした。
最初は中国科学院大学からの論文で、細胞外に沈着したアミロイドβを、細胞内のリソゾームで分解させるペプチド薬の開発で、タイトルは「Efficient amyloid-β degradation in Alzheimer’s disease using SPYTACs(SPYTACsを用いてアルツハイマー病のアミロイドβを効率よく分解する)」だ。
研究のアイデアは、スタンフォード大学が2020年 Nature に発表した細胞外の分子を細胞内のリソゾームに取り込ませて分解する LYTAC と呼ばれるテクノロジーで(Nature, 584 ,291, 2020)、細胞内の分子を分解させる PROTAC に匹敵する創薬モダリティーとして世界中で開発競争が行われている。特にリソゾームに取り込まれてリサイクルされる表面分子に結合するリガンドと分解したい細胞外タンパク質に結合する分子をリンカーでつないだ2重特異性を持つ薬剤の開発が進められている。従って完全にオリジナルではないが、アミロイドβ除去が可能なペプチド薬にいち早く仕上げて、前臨床実験を終えたという点では中国創薬研究の力を示す論文だと思う。
リソゾームと細胞膜をシャトルする分子としてこの研究ではリポプロテイン受容体 (LRP-1) を用いている。LRP-1 に特異的に結合するペプチドの設計については論文を読んでもよくわからなかったが、LRP-1 特異的である事は確かめてある。アミロイドβに結合するペプチドは現在もかなり研究が進んでいる領域だが、ここでは KLCFF と言う短いペプチドで、この二つをリンカーでつないだのが SPYTAC になる。
LRP-1 を発現する肝臓細胞を用いて、このペプチドがAβをリソゾームに取り込み、そこで分解すること、また LPR-1 を発現している肝臓や脳にペプチドが分布し、一定程度脳血管バリアを超えて脳内に入ることを確認した後、5xFADと呼ばれるアミロイドとそれを処理するプレセニリン分子に全部で5つの変異を導入したアルツハイマー病マウスモデルを用いて治療実験を行っている。この時、対照の一つとしてAβに対する抗体レカネマブを用いる実験グループをおいて比較している。
結果だが、アミロイドプラーク除去でみると、レカネマブをほんの少し凌駕している。生化学的に調べると、抗体はDEAで分解できるプラークのみを除去するが、SPYTACはformic acid で解ける画分も除去している。とはいえ神経萎縮については両者はほとんど同じで、認知行動テストでも両者は変化がない。
レカネマブと最も大きく違うのは、ARIAとして知られる血管炎症がほとんど起こらない点で、ARIA自体は治療をやめる理由にならないとわかっているとは言え、アドバンテージになると思う。
この研究では副作用がないと結論しているが、懸念される点はある。まず、LRP-1 結合ペプチドを全身投与することで、高脂血症を誘導する可能性がある。肝臓障害などについては調べているが、かなり気になる。もう一つの問題は、半減期の問題だ。抗体は2-4週間に一回投与で良いが、このペプチドの半減期は短かそうで、毎日腹腔投与を行っており、長期投与には向かない可能性が高い。
とは言え、LYTAC から始まる競争に参加して、薬剤候補まで短期にたどり着いているのは中国創薬の力を示す例になる。明日はパーキンソン病の原因分子シヌクレイン異常を可視化する研究を紹介する。

中国科学院大学からの論文で、細胞外に沈着したアミロイドβを、細胞内のリソゾームで分解させるペプチド薬の開発だ!
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ペプチド医薬、人工タンパク質薬の大きな可能性をヒシヒシと感じる今日この頃です。
低分子医薬もマダマダいけるのではないでしょうか