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3月13日 ミトコンドリア病をバイアグラで治療できる(3月11日 Cell オンライン掲載論文)

2026年3月13日
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Leigh症候群は、様々な遺伝子変異によりミトコンドリアの酸化的リン酸化障害、即ち細胞内でのATP合成が傷害され、乳児期から脳幹の神経細胞壊死が起こる病気で、現在のところ治療法はない。

今日紹介するドイツ・デュッセルドルフ大学を始め、イタリア、アメリカ、ルクセンブルグ他、様々な国が共同で発表した論文は、Leigh症候群治療にバイアグラが使えることを、薬剤スクリーニングから臨床治験まで進めた研究で、3月11日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Pluripotent stem-cell-based screening uncovers sildenafil as a mitochondrial disease therapy(多能性幹細胞ベースのスクリーニングにより sildenafil (バイアグラ) がミトコンドリア病の治療に利用できることが明らかになった。)」だ。

Leigh症候群の原因遺伝子は100種類を超えるが、この研究では最も代表的な MT-ATP6 の変異患者さんから iPS細胞を作成し、そこから神経前駆細胞を誘導し、この細胞を用いてスクリーニングを行っている。患者さんではミトコンドリア膜電位 (MMP) が低下しており TMRM の蛍光強度として測定できる。この方法で、臨床応用が可能な5632種類の化合物をスクリーニングしたところ、MMP が中程度に回復する化合物の中に Phosphodiesterase5 (PED5) 阻害剤が2種類も発見された。

このスクリーニング化合物には含まれていなかったがPED5阻害剤と言えばバイアグラで、しかも勃起不全だけでなく子供の肺高血圧に既に臨床応用されており、後は全ての実験をバイアグラに変えて行っている。

長い話を短くすると、Leigh症候群由来の神経前駆細胞の呼吸機能やATP合成異常だけでなく、神経発生の様々な活動が正常化する。特に Hoxa5 の下流の遺伝子発現が大きく改善して、神経のマトリックス形成や増殖などの活性が正常化する。この細胞レベルの変化をより明確にするために、神経オルガノイド形成を用いて調べると、遺伝子変異により特に神経前駆細胞の増殖と分化が傷害されているが、これをバイアグラが正常化できることを明らかにしている。

バイアグラの標的分子は PED5 なので、この分子の阻害がミトコンドリア酸化的リン酸化、そして ATP 産生を正常化することになるが、メカニズムについて、オルガノイドのスライス培養を用いるカルシウムイメージングや MMP 測定を行い、最終的に PED が阻害されることで、cGMP濃度が上昇し、それが cGMPプロテインキナーゼを活性化することで、小胞体から細胞質内へのカルシウム流入を低く保つことで、間接的にミトコンドリアの呼吸活性を維持するとともに、軸索形成など神経機能自体を活性化することで、神経機能正常化に関わっていると考えられる。

生化学的メカニズムは今後さらに検討されていくと思うが、バイアグラは小児にも使われている薬剤なので、まずマウスやブタのLeigh症候群モデルに投与実験を行い、通常なら1ヶ月ぐらいから死亡が始まるマウスモデルで、死亡を20日ぐらい抑えること、また生後すぐに死亡するブタモデルで、25%のブタが250日以上生存できていることを示している。

この結果に基づき、肺動脈高血圧治療で示された副作用の出方なども勘案し、6人の患者さんにバイアグラ投与を行い、一人の患者さんでほてりが見られた以外はほとんど副作用なく、運動機能や神経発生の改善が見られ、2例では認知機能の改善まで認められている。また、ミトコンドリア病の症状判定スコアでも、明確な改善が見られている。

結果は以上で、Leigh症候群についてはさらに大規模治験が行われていると想像され、初めての内服薬として使われるようになるのではと予想する。ミトコンドリア病は酸化的リン酸化異常だけでなく、様々な過程に関わる分子の変異で起こるので、他のタイプの異常にバイアグラが効果があるかはわからないが、iPS細胞を用いて調べることができるだろう。

と言うのも、バイアグラを服用していた患者さんでアルツハイマー病の発生が70%低下していたという驚くべき結果が報告され、現在治験が行われている。最近発表されたアルツハイマー病にたいする様々な治験を調べた Alzheimer’s Research & Therapy 誌の報告でも(https://doi.org/10.1186/s13195-025-01895-4)、さらに大規模治験へと進み期待できる3種類の薬剤の中にバイアグラが残っている。その意味で、ミトコンドリア異常が見られる多くの病気で、ひょっとしたらバイアグラが使えるのかもしれない。

  1. okazaki yoshihisa より:

    6人の患者さんにバイアグラ投与を行い、一人の患者さんでほてりが見られた以外はほとんど副作用なく、運動機能や神経発生の改善が見られ、2例では認知機能の改善まで認められた。
    Imp:
    Leigh症候群にバイアグラ
    アルツハイマー病にバイアグラ
    バイアグラ、実は妙薬だったりして。。。
    今後の展開に注目します

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