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2月3日:ヨーロッパ・アジアへの現代人類の旅立ち(Nature オンライン版掲載論文)

2015年2月3日
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ヨーロッパとアジアに住む現代人のゲノムにネアンデルタール人の遺伝子断片が存在することが明らかになってから、現代人類とネアンデルタールの交雑が、いつどこで起こったのかは人類史の重要な課題になっている。私たち現代人類がヨーロッパやアジアに分布し始めたのは5−6万年前と考えられているが、当時ネアンデルタール人はヨーロッパ、アジアに広く君臨していた。このことから、おそらく交雑は現代人類が西アジアから東欧に移る途中で起こったのではと考えられてきた。ところが昨年11月このホームページで紹介したが、シベリアで発見された45000年前の現代人類の化石のゲノムにすでにネアンデルタール人の遺伝子が存在しており、ネアンデルタール遺伝子の量から考えて、交雑は5−6万年前には起こっていたことがわかった。とすると、現代人類が中東からユーラシアに出て行こうとする時期と一致し、イスラエルや中東自体も現代人類とネアンデルタールの交雑場所として浮上してくる。今日紹介するイスラエル・テルアビブ大学からの論文はこの可能性を強く示唆する考古学研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Levantine cranium from Manot Cave (Israel) foreshadows the first European modern humans(イスラエルManot洞窟から出土したレバント人の頭蓋骨は現代ヨーロッパ人の先祖)」だ。この研究は純粋の考古学研究で、2010年から続いている、北イスラエルカルメル山のManot洞窟の発掘から発見された頭蓋の一部と、鎖骨の分析だ。まずこの洞窟は全長100mに渡る大きな洞窟で、出土する石器から旧石器時代から洞窟が潰れる1.5−3万年前まで、異なる人類により利用されてきた歴史を持っている。この論文で調べられたのは、ちょうど洞窟中央部から出土した骨だ。骨の正確な年代測定から、約5,5万年前のものであることがわかる。まさに現代人類がユーラシアへの旅を始めていた時期と一致する。そして最も重要な結論は、この頭蓋がヨーロッパやアフリカで出土する後期旧石器時代の現代人類の頭蓋と類似している点だ。もともとイスラエルは出アフリカの通り道にあたるため、様々な時代の人類化石が出土する。中でも、ネアンデルタールから別れたばかりの最も古い現代人類の骨も出土し、ネアンデルタール人との形態上の共通性が見られる。このため、イスラエルには後期石器時代の新しい現代人類は存在していなかったのではと考えられていた。しかし、このManot洞窟人は形態的にも、年代測定からも現在ヨーロッパやアフリカに分布する現代人類の先祖であることがわかり、まさに現代人類の出アフリカ時期に対応することが明らかになった。その上で、形態的にネアンデルタールの影響も存在するという。とすると、ネアンデルタールと現代人類の交雑は現代人類が出アフリカのため、イスラエルを移動している間に起こったと考えられる。考古学とゲノム研究が完全に一致した瞬間だと思った。日本語でarcheologyは考古学と訳されているが、この言葉は考えるだけというニュアンスが強く、エビデンスに基づく科学であるという響きがない。異なる言葉、例えば古代学にそろそろ変えたらどうかと思う。

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