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3月15日 光遺伝学創始者 Karl Deisseroth が老化を研究したら(3月12日号 Science 掲載論文)

2026年3月15日
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Karl Deisseroth は哺乳動物に光遺伝学を導入し、神経科学のあり方を根本的に変えた研究者で、いつノーベル賞を受賞してもおかしくないとだれもが認める神経科学者だ。このブログでも何度も紹介したが、マウスを使っていても彼の論文はいつも楽しめる。2020年に紹介した解離体験をマウスで研究するロジックなどはむちゃくちゃ面白いだけでなく、精神医学からドストエフスキーに至るまでの強要の深さを感じた(https://aasj.jp/news/watch/13913)。あまりに感激したので Youtube 配信までしてしまった(https://www.youtube.com/watch?v=6Q6tbLO79sw)。

その Deisseroth があろうことか老化にチャレンジした論文が3月12日号の Science に掲載された。タイトルは「Lifelong behavioral screen reveals an architecture of vertebrate aging(一生涯行動を追跡すると脊椎動物の老化の構造が見えてきた)だ。

まず脊椎動物として選ばれたモデルだが、やはりこのブログで何度も紹介している寿命の最も短い脊椎動物、キリフィッシュを選んでいる(https://aasj.jp/news/watch/4519)。と言うのも、キリフィッシュを実験室で飼育できるようにしたのが、Deisseroth と同じスタンフォード大学の Anne Brunet で、おそらく一緒に研究しようという話が持ち上がったのだと思う。

ただ、これまで紹介したような老化研究に Deisseroth が満足するはずはない。この研究では、一匹づつケージに入れて、その行動を死ぬまで毎日ビデオで記録し、老化に伴う行動変化を研究できるかという大変な課題にチャレンジしている。光遺伝学で数多くの細胞を同時記録し操作するシステムを開発した Deisseroth ならではの発想で、研究では一度に40匹ほどのキリフィッシュを同時に死ぬまで飼育し記録できるシステムを構築している。

膨大な記録だが、これをニューラルネット畳み込みモデルを用いて6種類の行動パターンをキャッチさせ、この基本パターンの変化としてキリフィッシュの行動を数値化している。こうして得られる多次元配列構造をテンソル成分分析により44種類のコンポーネントに分解し、これから得られる毎日の行動の変化を、飼育開始から死ぬまでの軌跡として表現出来るようにしている。

キリフィッシュでは寿命にそれほど差がないのかと思っていたが、飼育環境は全く同じなのに46日から394日まで寿命は極めて多様だ。その結果、短命の個体と、長命の個体の軌跡を比べることが可能になり、両者の行動パターンが大きく異なることを明らかにしている。

膨大なデータなので、誤解を恐れずまとめてしまうと、寿命の長短を決める行動パターンは、若いときから異なっており、例えば運動が素早い魚ほど長生きすると言った相関が見える。人間でも歩くのが速い人が長生きするといった感じだ。ただ行動から寿命を正確に予測するとなると、100日目を超したぐらいの行動パターンの比較が重要で、よく動き、よく眠り、概日周期にしっかり合わせた行動パターンを示す魚ほど長生きすると言える。

とは言え、行動パターンは徐々に変化するのではなく、行動が大きく変化するいくつかの段階を経て死に至ることがわかる。さらに、健康的な動きを示す期間が最後まで続くわけではなく、寿命と健康寿命は分かれる。

もちろん寿命の長短を決める遺伝子発現と相関させることも可能だが、この研究では脳の遺伝子発現との相関はあまり調べられていない。しかし、肝臓でリボゾーム合成が高いほど短命である事もわかる。

詳しい内容は是非自分で読んでみてほしいと思うが、行動と老化を脊髄動物で詳細に調べたのは初めてではないだろうか。ともかく測定や分析システムはさすが Deisseroth と思わせる実験系で感心する。

魚でこそ行動分析は簡単でないが、我々人間はスマートウォッチやスマートフォンで一定の行動を記録され続けている。さらに、我々の脳の経験のアバターも可能になることは間違いない。この記録に、当然我々の脳の機能も含まれる。おそらく Deisseroth の頭の中には、将来を見据えた長期の計画があるように感じた。

  1. okazaki yoshihisa より:

    寿命の長短を決める行動パターンは、若いときから異なっており、例えば運動が素早い魚ほど長生きすると言った相関が見える!
    imp.
    スマホの健康アプリは重宝します。
    認知症予防に1日7000歩を目標にしてます。

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