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3月23日 T細胞受容体と抗原のメカニカル結合力を上げる(3月19日 Science 掲載論文)

2026年3月23日
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CAR-T治療は抗体の抗原認識をT細胞に移植する方法だが、ガンの抗原ペプチドとMHCを認識するT細胞の抗原受容体 (TcR) 遺伝子を患者さんのT細胞に導入してガンを殺す方法の開発も行われている。この場合、特定の組織抗原を持つ患者さんに対象が限られるが、43%の転移性滑膜肉腫患者さんで効果が見られたことから、2024年FDAが迅速承認され、この分野がさらに活性化された。

この治療にはガン抗原に対するTcRを選ぶことが最も重要で、多くの場合親和性を上げるなどの様々な遺伝子改変が行われる。今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、前立腺特異的に発現しているPAP由来ペプチドと HLA-A*02:01 に対するTcRのアフィニティーではなく、メカニカルストレスに対する結合力の強さを獲得させ、治療に使えるRcRを設計するという面白いアイデアを追求した研究で、3月19日 Science に掲載された。タイトルは「Overcoming T cell tolerance to tumor self-antigens through catch-bond engineering(腫瘍の自己抗原に対するトレランスをCatch-bond 操作で克服する)」だ。

タイトルの catch-bond というのは、剪断力のような機械的力を利用して、分子結合時間が伸びる現象で、血液が流れている血管内で白血球が血管内皮とセレクチンを介して接着する時に見られる。研究では、PAP/MHC に対して結合する TcR156 に様々な変異を導入して、剪断力がかかったとき、結合力が高まるが親和性は変化しない変異体を見つけるところから始めている。親和性が特異性を決めるので、親和性を変えないことはガンへの特異性を保証するためには重要になる。

実際には、PAP/MHC と結合するTcRの抗原結合部位だけに変異を導入する。ただランダムな導入ではなく、メカニカル力を上げると期待できる極性を持ったアミノ酸(ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン酸)に置き換え、反応が高まる変異を集め、最後にランダムな突然変異も加えて、最終的にTcRの活性化が強いTcR156変異体を選んでいる。これを、剪断力がある状態で結合力や結合時間を測る方法で調べると、もとの TcR156 では0.2秒しか結合できなかったのが5秒近く結合していることがわかる。

次にこの変異TcRの生物活性を調べると、特異性は全く変化しないが、キラー活性、増殖活性、インターフェロン分泌活性が数倍高まったT細胞を作成することができる。さらに、抗原刺激後に起こる細胞の疲弊が起こらず、機能を維持することも示されている。アフィニティーを変えずに、反応持続を高めるだけでこれだけの効果があるのは驚きで、生物学的にも面白い。

あとは変異TcRを導入した免疫不全マウスに、変異TcRを導入したT細胞を移植する実験で、腫瘍をほぼ完全に抑えること、そして生体内でも疲弊が起こりにくいことを確認している。

最後に変異TcRの構造解析と、分子結合のコンピュータシミュレーションを行って、導入した極性を持つアミノ酸と接触する抗原側のアミノ酸の解析から、catch-bond ホットスポットの反応により結合部位の水分子の再構成が起こることで、抗原とTcRの結合力が高まることを示している。

以上が結果で、抗原とTcRの結合を理解する上で生物学的には面白いと思った。一方臨床応用を考えると、抗原/MHCごとにTcRを分離し、変異導入を行い、TcRを至適化する必要があるが、一度出来ると同じMHCを持つ人に利用できる。価格の問題は常につきまとうが、様々な抗原とMHCの組み合わせに対して一度変異TcRを作成すれば多くの人をカバーできるようになるのだろう。ただ、最初から catch-bond 現象に絞ることで、将来はAIでの変異予測技術も確立するだろう。特異性の心配なく、ガン特異的治療の一つとしては十分可能性が高い。競争が進むことでコストも下がることを期待したい。

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