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3月24日 皮膚器官の完全再生を神経細胞が押さえている(3月20日 Cell オンライン掲載論文)

2026年3月24日
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火傷の治療でもわかるように、大人になると時間がたてば残っている皮膚上皮が再生して、徐々に上皮化は進むが、毛根や汗腺と言った皮膚器官は全く再生できず、皮膚の本来持つ機能が強く抑制される。このため、機能的皮膚の再生は皮膚再生研究の最も重要な課題だと言える。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、皮膚器官の完全再生を抑制する要因の一つは再生時に発生する線維芽細胞が分泌する CXCL12 をはじめとする分子によって誘導される末梢神経の過剰な神経分布であり、生後5日目までなら神経の活動を抑制することで皮膚器官の再生を誘導出来ることを示した面白い研究で、3月20日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Hyperinnervation inhibits organ-level regeneration in mammalian skin(過剰な神経分布は哺乳動物皮膚の器官形成を阻害する)」だ。

イモリでなくとも、新生児期の哺乳動物には一定の再生機能が備わっていることが知られている。即ち、発生が進むとともに、何らかの形で再生能が抑制されると考えられ、抑制分子の探索は再生研究の重要分野になっている。皮膚の場合、生後すぐに損傷を加えた場合、限定的だが毛根の再生は見られる。しかし、生後2日目には上皮が回復しても皮膚器官は全く再生できない。それなら、生後すぐと2日目を比べればいいのだが、この研究の素晴らしい点は、生後すぐの再生はかなり限定的なので完全に器官再生が起こる時期に損傷を加える実験を行う必要があると考えたことだ。とはいえ、この実験を可能にするには、発生前の胎児に損傷を加え皮膚再生を調べる必要がある。この研究のハイライトは、なんと子宮内にいる胎生16.5日目の胎児の皮膚を手術的に損傷して、発生・出産させた後、皮膚再生を調べる方法を開発したことだ。Method に簡単に述べられているプロトコルを読んでみると、なかなか大変な手術である事がわかる。そしてこの苦労が実り、16.5日目に皮膚を深く切り取っても、毛根は言うに及ばず、リンパ管も含む皮膚の全ての器官が完全に回復しており、回復した毛根には立毛筋が分布し、寒さに対して毛を逆立てるところまで回復していることを示している。

次に、再生中の細胞を取り出し、single cell RNA sequencing で解析し、生後5日目の再生時のみ再生時特有の線維芽細胞が現れることを発見する。そして、この再生時の線維芽細胞が分泌する分子をリストして、これらの遺伝子をアデノ随伴ウイルスをベクターとして16.5日目胎児の再生時に注射すると、Cxcl12、CCL7、そしてTimp1遺伝子を加えると、器官再生が抑制されることが明らかになった。

これらの分子は白血球やマクロファージの損傷部位への遊走に関わると考えられたので、他の方法で再生部位への白血球の遊走を誘導する実験を行い、再生を抑制しているのが炎症や白血球の遊走ではないことを発見する。そして、特に Cxcl12 による損傷部位への神経分布が、再生を抑制している要因である事を突き止めている。

最後に、再生部位での神経活動を抑えることで、生後の再生過程の抑制を解除できるかいくつかの方法で検討している。もちろん、Cxcl12 の線維芽細胞からのノックアウト、あるいはその受容体の神経細胞でのノックアウトにより、再生能は回復する。しかし、おそらく一番重要な発見は、ボツリヌストキシンで神経のシナプス活動を抑制すると、それだけで器官再生が回復することで、現在用いられているボトックスの様々な効果を考えると、むちゃくちゃ面白い。

結果は以上で、生後5日以降の再生も同じように回復させられるかどうか(おそらく難しいと思うが)などは示されていないが、ともかく神経活動が初期の皮膚器官再生を抑制する最も重要な原因である事が明らかになったのは素晴らしい。

  1. okazaki yoshihisa より:

    一番重要な発見は、ボツリヌストキシンで神経のシナプス活動を抑制すると、それだけで器官再生が回復することで、現在用いられているボトックスの様々な効果を考えると、むちゃくちゃ面白い。
    Imp:
    神経活動が初期の皮膚器官再生を抑制する最も重要な原因!

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