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3月27日 患者さんから取り出した乳ガン細胞をマウスで増殖させる新しい方法の開発(3月18日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年3月27日
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変異ガン遺伝子などの明確な標的がわかっている場合でも、薬剤が効果を示さないことはしばしばある。当然細胞の増殖機構を標的にする治療法が効くかどうかは使ってみるまでわからないことがある。これが抗ガン治療の患者さんの不安と不満につながっていると思う。もし、薬剤の効果を患者さんから取り出した細胞であらかじめ確かめることが出来れば、不安や不満に答えることができる。

この目的のために様々な方法が開発されてきた。一つは3次元オルガノイドを中心とした培養法の開発で、多くのガンでかなりの確率で細胞培養が成功するようになってきた。しかし、時間とコストの面から、個々の患者さんの治療前にこの方法で細胞を培養して薬剤効果を確かめるには、時間とコストの壁が立ちはだかる。これに代わる方法として、免疫不全マウスに移植して増殖を見る方法で、乳ガンの場合脂肪組織に移植してエストロジェンを投与するという方法が用いられるが、成功率が低い。

今日紹介するオランダ ガン研究所からの論文は、乳ガン細胞をマウス乳腺の乳管内に注入する方法が、長期維持という点では3-4割の成功率でガン細胞を増殖させることが出来、移植マウスでの抗ガン治療の結果が患者さんの成績とほぼ一致することを示した研究で、3月18日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Patient-derived xenograft models of primary breast cancer for preclinical evaluation of neoadjuvant therapies(患者さん由来乳ガンの他種移植モデルはネオアジュバント治療の前臨床評価に使える)」。

マウスの乳管に細胞を注射するのがどれほど難しいかはわからない。しかし、乳ガンなら乳管から乳腺に戻せば最も自然に近い形で増殖させられるのではと着想したことがこの研究のハイライトだ。先日紹介した子宮内のマウス胎児の皮膚損傷手技にチャレンジしたのと同じラインの研究で、我々古い時代の研究者にはグッとくる物がある。

4種類の乳ガン、1)Her2陰性ER陽性のluminal A type、2)Her2陰性ER陽性 luminal B type、3)Her2陽性type、そして4)トリプルネガティブtypeを乳管に25000個注入している。エストロジェンの投与方法などいくつかの検討を経た上で、増殖能の高くないHer2陰性のluminal A 腫瘍でも12.3%の確率、アグレッシブなlumonal B腫瘍では32%、Her2陽性typeで33%、最も悪性のトリプルネガティブtypeでは67%の成功率で持続的に増殖する細胞株が樹立できる。

さらに、継代は難しいが移植した後ホストで一定の増殖を示すガンを含めると、全てのグループで6割を超す。少し面白いのは、トリプルネガティブtypeは継代可能なガンの比率が圧倒的に高いが、初代でも増えない細胞の比率は4割近い。今後この理由がわかると、乳ガンの多様性の理解も深まる気がする。

詳細は割愛するが、マウス内で増殖、継代可能な腫瘍の組織型、遺伝子発現、ゲノム変異など、ほぼ元のガンと同じである事を詳しく調べている。

以上のことから、免疫不全マウスを用いる個々の乳ガンに効く薬剤スクリーニングも夢ではない可能性が出てきたと思う。ただ、この研究ではテーラーメイド治療というより、免疫不全マウスへ移植可能な様々な乳ガンタイプを用いて、薬剤の効果検定が可能かどうかを乳ガン治療に使われる代表的な薬剤を用いて調べている。

例えばHER2陽性ガンでは、現在ネオアジュバント治療に使われている trastuzumab が移植ガンでも同じように著効を示すこと、ER陽性の腫瘍には最初からER阻害剤とともにCDK4/6阻害剤を併用した方が高い効果が得られることを示している。さらにBRACA変異で組み換え遺伝子修復に異常が見られるトリプルネガティブtypeは、現在ネオアジュバント治療に用いられている抗ガン剤は効果を示すが、これにPARP阻害剤を加えても効果が上がらないと、ちょっと予想外の結果も示している。

以上が結果で、切除したばかりの乳ガンを、比較的安価な方法でマウスで継代できる乳管注射を確立したことがこの研究の全てだ。この方法は間違いなく普及し、最終的には個別のガンについての薬剤テストにも使われるようになるのではと期待している。

  1. okazaki yoshihisa より:

    HER2陽性ガンでは、現在ネオアジュバント治療に使われている trastuzumab が移植ガンでも同じように著効を示すこと、
    ER陽性の腫瘍には最初からER阻害剤とともにCDK4/6阻害剤を併用した方が高い効果が得られることを示している。
    Imp:
    切除したばかりの乳ガンを、比較的安価な方法でマウスで継代できる乳管注射を確立したことが肝!

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