中国などの一部の国に対するトランプ関税は、合成麻薬フェンタニルを米国に違法に流入するのに手を貸していることを理由に合法性を得ようとしている。関税で解決しようとするのがトランプ流だが、確かにフェンタニル中毒は米国をむしばんでいることは間違いない。モルフィネ受容体を刺激して鎮痛作用を高めようとすると、中毒を含む様々な副作用に見舞われ、特に急性の呼吸抑制を誘導してしまって死に至らしめる。これは、オピオイド受容体がGタンパク質を刺激して鎮痛作用を誘導すると同時に、アレスチンをリクルートしてGタンパク質のシグナルを弱める2面性を持つためだ。以前はアレスチンシグナルが呼吸抑制に直接関わるとされていたが、アレスチンノックアウトマウスでも呼吸抑制が起こることからこの考えは否定されている。いずれにしても、両者のバランスをとりながら副作用のない合成麻薬を開発することは至難の業と言える。
これに対して今日紹介する米国NIHからの論文は、1950年代に開発されたスーパー麻薬 Nitazene を化学的に修飾することで、副作用の低い合成麻薬を開発できることを示した研究で、トランプから金一封が間違いなく授与されると思う。タイトルは「A µ-opioid receptor superagonist analgesic with minimal adverse effects(副作用を最低限に抑えたμオピオイド受容体に対するスーパー刺激剤)」で、4月1日 Nature にオンライン掲載された。
この研究ではまず Nitazene にアイソトープラベルも考えフッ素を添加した fluornitrazene (FNZ) を作成し、肝臓で分解された中に存在する N-desethyl-FNA を分離合成、DFNZ がμオピオイド受容体 (MOR) のスーパー刺激剤の活性を保持しているが、比較的アレスチンのリクルートが抑えられる化合物である事、そしてその分子構造的基盤を明らかにている。このMORの活性化は低いがアレスチンのリクルートはさらに低いという特徴が、副作用の低い麻薬として使えるのではと、薬剤動態から効果に至るまで徹底的にマウスで調べたのがこの研究だ。
まずラットに注射して調べると、鎮痛作用はFNZで0.03mg/kgで作用があるが、DFNZでは3mg/kg必要だ。ただ用量を上げれば鎮痛効果は十分得られる。一方で、脳内への貯留を調べると、DFNZは血清内濃度の半分以下でとどまる。これは、PGP/BCRP として知られる、脳から化合物をくみ出す仕組みにDFNZが強い結合性を持つ結果である事がわかる。
このようにアレスチンのリクルートが少ないこと、脳に蓄積しにくい性質の結果、モルフィネやFNZと比べても離脱しやすく、また呼吸抑制も低い。このあたりの実験は、神経行動薬理の粋とも言えるプロの仕事で、その結果FNZもDFNZも多くの項目でほぼ同じだが、DFNZはフェンタニルやモルフィネと比べると、習慣性や中毒性が低く、呼吸抑制が起こる閾値も高い。
副作用や習慣性の背景の一つが、モルフィン受容体がガラニン受容体と結合してドーパミン放出を介する報酬系を刺激するためだが、この刺激経路がDFNZでは低下しており、実際にMOR刺激によるドーパミンの脳内への分泌が抑えられていることを発見する。
以上の結果から、MORのスーパー刺激剤も、設計次第では副作用のない合成麻薬として生まれ変わらせることが出来ることを示している。DFNZがそのまま人間でも使えるかどうかはまだわからないし、麻薬効果が脳と末梢でどのようなバランスで発揮されているのかもわからないため、まだまだ研究は必要だと思うが、かなり期待できる話だと思う。こんな結果を見たら、内政に集中した方が良かったとトランプも大いに後悔しているのではないだろうか。

1950年代に開発されたスーパー麻薬 Nitazene を化学的に修飾することで、副作用の低い合成麻薬を開発できることを示した!
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両者のバランスをとりながら副作用のない合成麻薬を開発することは至難の業!
今回、これを解決