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4月5日 タコのセックス(4月2日 Science 掲載論文)

2026年4月5日
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タイトルを生物学的にタコの交接と書かずにセックスとしたのは、この論文を読んでいて葛飾北斎の「蛸と海女」という春画を思い出したからだ。ご存じない方は Wikipedia に詳しく掲載されているので是非自分で見てほしい(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%9B%B8%E3%81%A8%E6%B5%B7%E5%A5%B3#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Tako_to_ama_retouched.jpg)。全裸の海女が大小二匹の蛸に吸い付かれ恍惚の表情を浮かべている絵柄は、さすが北斎と思える大胆な絵柄で、想像力ではどの浮世絵師もかなわないだろう。しかし、この絵を書くために、北斎は蛸のセックスを観察したのだろうか。

今日紹介するハーバード大学とカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、蛸の交接に必須の交接腕 (hectocotylus) による蛸の交接のメカニズムを、最新のテクノロジーを駆使して真面目に調べた論文で、4月2日号の Science に掲載された。極めて真面目なタイトルで、「A sensory system for mating in octopus(蛸の交接のための感覚システム)」だ。

蛸には交接腕という交接のためだけの足があり、交接ではオスはこの足でメスをまさぐり、精子が詰まった袋をメスの卵巣の近くにまで届ける役割がある。この論文では、視覚が全く聞かない条件でも交接腕は的確にメスだけを探し当て、体に侵入できることを確認して、交接腕自体が独立して的確に精包を届ける能力があることを確認している。

交接腕を導くためにはメスからシグナルが出る必要があるが、研究ではこれがプロゲステロンではないかとにらんだ。我々哺乳動物でプロゲステロンは核内受容体型の分子を介して作用するが、蛸には同じような転写因子はない。しかし、結果はにらんだとおりで、切り出した交接腕はプロゲステロンに反応して特殊な動きを示すが、他のステロイドホルモンには反応しない。

交接腕のプロゲステロン反応性を支える細胞と分子を探すため、今度は交接腕細胞の single cell 解析を行い、交接腕の吸盤に集まる神経細胞を特定するとともに化学触覚受容体が発現していることを確認する。この受容体は交接腕以外の足でも強く発現されているが、その種類は26種類存在するとされている。いくつかの頭足類の交接腕を調べると、ほかの足と同じぐらいの多様な化学触覚受容体遺伝子を発現している。

そこで、それぞれの受容体のうちプロゲステロンに反応する受容体を、遺伝子を発現させた細胞の電気反応で調べ、CRT1分子のみがプロゲステロンに反応することを突き止める。そして、CRTとプロゲステロンの結合をクライオ電顕による構造解析で調べ、CRTはいくつかのリガンドに反応するが、プロゲステロンにはこれまでCRT1が反応することが知られている分子と比べても強い反応が誘導されることを明らかにしている。

最後に様々な頭足類でプロゲステロンに対する反応性を調べて、ほとんどの種でプロゲステロンに強く反応すること、そしてアルファフォールドを用いたタンパク構造予測から、全ての種のCRT1にプロゲステロンがはまり込むポケット構造が存在することを明らかにしている。

以上が結果で、おそらくプロゲステロンは進化の早い段階から合成システムが完成し、同じ分子を片方は核内受容体のリガンドとして、片方は膜受容体のリガンドとして、異なるがしかし生殖という重要な過程で使っているという面白い研究になる。

こんな話は北斎には全く無関係だが、北斎春画に匹敵するほどダイナミックな話だ。

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