CKD (Chronic kidney disease) という用語で多様な腎疾患をまとめて考えることが2000年の初頭に提唱され、今や世界標準になっている。確かに腎機能を基本にして全身の影響を考えるには重要な概念だと思うが、組織自体が複雑で、病気の起こり方も極めて多様な腎臓病を全てCKDとしてしまうのには違和感があった。
ところが今日紹介するパリ・シテ大学からの論文を読んで、腎臓の病態を統一的に理解することの重要性がわかった気がした。タイトルは「HNF1B integrates signals in a feed-forward loop driving kidney disease progression(HNF1Bは腎臓病の進行を進めるフィードフォワード回路のシグナルを統合している)」で、4月16日 Science に掲載された。
CKDを統一的に考えるためには、原因のはっきりした遺伝性のCKDの発症メカニズムから調べるのが早道だと考え、片方の遺伝子が欠損していることでCKDのリスクが高まるHNF1Bに注目した。この遺伝子のヘテロ欠損では、他の要因と重なると様々なタイプの腎疾患が起こることが知られており、多様な腎疾患で統一的に働いている分子と考えられる。
マウス尿細管でこの遺伝子を任意の時期にノックアウト出来るマウスで生後7日目あるいは30日目でこの遺伝子をノックアウトして経過を観察すると、髄質の線維化と皮質の縮小を中心とする陣病変が誘導される。即ち、この遺伝子だけでCKDを誘導出来る。
一方、他の腎疾患モデルでHNF1Bのレベルを調べると、人間の糖尿病性腎症をはじめとする様々なモデルで一様にHNF1Bのレベルが低下していること、そして尿細管細胞株への添加実験をおこない、CKDの症状の中心であるアルブミンあるいは炎症で誘導されるインターフェロンがHNF1Bを強く抑えることを明らかにした。
以上の結果は、HNF1Bが低下すると尿細管が傷害されCKDが発症すると同時に、炎症など多様な原因で腎臓の異常が起こると、これ自体がHNF1Bの低下を誘導する、まさに悪循環をがこの分子により駆動されていることがわかる。
次にHNF1B低下により起こる尿細管の変化を、遺伝子発現や single cell RNA sequencing 等様々な方法で徹底的に調べ、最も重要なターゲットが細胞周期に関わる遺伝子である事を発見する。即ち、HNF1Bは尿細管細胞が増殖サイクルに移行するのを止める働きがあり、これが低下すると細胞周期に関わるサイクリンD1等の転写が急増し、事実細胞が分裂を始めることを確認している。
増殖を誘導するなら再生が高まって好都合だと考えてもいいのだが、実際にはHNF1Bレベルの低下で急に静止期から外れてしまうと、増殖に伴う様々なストレスが誘導される。例えばDNA損傷を示すγH2AXの発現が高まり、DNA損傷に応答するATR遺伝子の発現が誘導される。
以上の結果は、尿細管細胞の静止期を維持するHNF1Bが欠損することで、尿細管が増殖期へと誘導されることが尿細管の細胞死を早め、髄質の線維化を誘導するが、一旦HNF1Bの低下が始まると、それ自体でさらにHNF1Bを低下させる悪循環が始まるというシナリオを示している。
最後にCKDと診断された患者さんの遺伝子発現データベースを比べ、確かにHNF1Bの標的遺伝子の発現が強く抑制されていること、またHNF1B標的遺伝子の発現と腎機能の指標eGFRは比例していること(発現が低ければeGFRも低い)を示している。
以上が結果で、CKDの進行を考える点でかなり重要な研究だと思う。実験ではCDK4阻害剤を用いてCKDの進行を抑えられることをマウスモデルで示しているが、一般的な治療になるにはハードルが高い。しかし、現在CKDの特効薬と言われるSGLT2阻害剤の効果をHNF1Bから身直すのはおもしろいように思う。

尿細管細胞の静止期を維持するHNF1Bが欠損することで、尿細管が増殖期へと誘導されることが尿細管の細胞死を早め、髄質の線維化を誘導する.
一旦HNF1Bの低下が始まると、それ自体でさらにHNF1Bを低下させる悪循環が始まる.
Imp:
HNF1Bが肝の分子となって