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4月24日 炎症と再生の見事な合体(4月22日 Nature オンライン掲載論文)

2026年4月24日
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現役を退いてからは学会に行くことがほとんどなくなったが、たまに学会で話す機会を頂くことがある。今年は会長の椛島さんの計らいで炎症・再生医学会で話すことになっており、本当に久しぶりだと楽しみにしている。この学会が、日本炎症学会から日本炎症・再生医学会に名称を変えたのは、ちょうど再生医学のミレニアムプロジェクトが始まった2000年だった。おそらく炎症は組織障害を伴い再生と表裏一体と考えた統合だったと思うが、あれから4半世紀、この分野の中心学会として活動が続いているようだ。しかし考えてみると、炎症自体は今や生活習慣病から認知症、そして老化まであらゆる生物現象の核として働いていることがわかっており、ひょっとしたらさらに拡大して全ての病気を統合する学会へと発展するのかもしれない。

ただ今日紹介するコーネル大学からの論文は、炎症メカニズムがそのまま再生メカニズムとして利用されていることを示す、まさに炎症・再生医学会のアイデアを代表するとも言える研究で、4月22日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Caspase 5C amplifies Wnt via APC cleavage to promote intestinal homeostasis(Caspase 5C はAPCを切断してWntシグナルを増強して腸のホメオスターシスを促進する)」だ。

Caspaseは自然炎症調節に関わる重要なタンパク分解酵素だが、その一つ Caspase 11 はTLR非依存的にLPSを認識して活性化され、ピロトーシスを誘導して、炎症を拡大するのに重要な働きをしている。ヒトでは、Caspase 11 は遺伝子重複によりCaspase 4 とCaspase 5 に別れ、マウス Caspase 11 の役割はほぼ Caspase 4 により担われている。

この研究では進化の最も新しい Caspase 5 に絞ってその機能を極めてオーソドックスな方法で調べている。まず Caspase 5 はスプライシングの違いでA、B、Cの3タイプに分かれること、Caspase 5C はカスパーゼをインフラゾームなどの炎症複合体にリクルートするCARDドメインを欠損していることを発見する。

CARDドメインが欠損したCaspaseが何をしているのか、Caspase 5C をヒト細胞株に導入して遺伝子発現を調べると、なんとWntシグナルが亢進することを発見する。Wntは腸上皮細胞の発生や再生に必須のシグナルで、何故 Caspase 5C がWntシグナルを亢進させるのか、Wntからβカテニンと続くシグナル分子とCaspase 5Cとの関係をしらべて調べていくと、Caspase 5C はWntシグナルの下流で働くDishevelled/APC複合体に結合して、APCを切断することを発見する。APCはβカテニンのユビキチン化/分解に関わる複合体を Axin/GSK3β と共に形成している分子で、この機能が失われるとβカテニンが分解されず、結果Wntシグナルが促進することになる。

以上の結果は、通常炎症で活性化され働くCaspaseが、Wntシグナルのような発生・再生に必須のシグナルを増強する機能を獲得したことになる。まさに、炎症再生医学会を代表するような分子と言える。おもしろいのは、腸上皮のオルガノイドを用いた発現パターンの解析で、Caspase 5C 腸上皮幹細胞システムの中で最も増殖力の強い transit amplifying 細胞に発現している点で、Wntシグナルがこの増殖のドライバーである事を考えると、炎症分子を増殖のドライバーに返信している。通常Caspaseが細胞死を誘導するのに関わることを考えると、本当におもしろい使い回しと言える。

さらにおもしろいのは、同じ Caspase 5 遺伝子由来の Caspase 5A、Caspase 5B は成熟した腸上皮で発現しているが、増殖中の transit amplyfiying 細胞では全く発現がない点だ。これらスプライシングの異なるcDNAを遺伝子導入して調べると、dishevelled分子をCaspase 5C と競合することで、Caspase 5C によるβカテニンの保護機能を逆に阻害してWntシグナルを抑えている。即ち、スプライシングを変化させることで、おなじ Caspase 5 をWntシグナル増強から、Wntシグナル抑制へとスイッチする。

炎症は組織傷害につながることを考えると、腸上皮の再生は表裏一体である必要がある。その意味で、Caspase 5C の進化と機能は興味深い。

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