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4月26日 MAPKとYAP/TEADシグナルの両方を阻害する化合物(4月22日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年4月26日
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今日の話は少し難しいが、個人的にいろいろ考えることがあったので紹介する。

タイトルにあるYAP/TEAD転写因子は、細胞の密度を感じるHipoシグナル経路の下流で働いており、細胞の密度が低いときにはHippoシグナルが働かないため、YAP/TAZが核内に移行、TEADと結合して、細胞増殖やアポトーシス阻害分子の転写を誘導することで増殖を維持している。ところが細胞の密度が高まると、マトリックスからのメカニカルシグナルなどによりHippoシグナルが活性化され、YAP/TAZをリン酸化して分解してしまうため、YAP/TAS/TEADのコンプレックスが形成されず、増殖に必要な分子が転写されなくなる。即ち、Hippoは発生や再生での細胞増殖抑制シグナルだが、ガン細胞でHippo経路は、ガン抑制遺伝子として働いていると言える。当然、この経路を変化させてガンを治療できるのではと、多くの研究が行われ、最終的にYAP/TEAD結合を阻害する薬剤の開発が進んでいる。中でもサンフランシスコのベンチャー Vivace Therapeutics が開発したVT3989は他に治療法のない中皮腫治療の第1/2相治験で86%に効果が見られることが報告された(Nature Medicine, 31, 4281, 2025)。

今日紹介する上海交通大学を中心にした中国研究グループの論文は、これまでとは全く異なるスクリーニング報でYAP/TEADの結合阻害剤を探索し、なんとカリフォルニアの創薬ベンチャーが開発したMEK阻害剤が、RAP/TEADの結合も阻害でき、MEKシグナル阻害剤耐性が出来たガンでも丸薬成功かが見られること、さらにもともとYAP/TEAD依存性の高い肝臓ガンの治療薬として期待できることを示した論文で、4月22日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Phase separation–based HTS identifies cobimetinib as a YAP-TEAD inhibitor that suppresses hyperactivated YAP-induced cancer progression(相分離阻害を指標にしたハイスループットスクリーニングによりcobimetinibが活性化されたYAPにより起こるガンの進展を阻害できるYAP/TEADの阻害剤として特定された)」だ。

この研究をいつから始めたのかはわからないが、世界中でYAP/TEAD阻害剤の開発が進む中で、新しい方法を用いれば、新しい化合物を開発できると考えて、熾烈な競争に飛び込むスタイルは、まさに中国の創薬研究の躍進を支えているのだろう。

YAPとTEADは単純に複合体を作ると言うだけでなく、核内で相分離することで転写ハブを形成することが知られている。この両者の相分離を蛍光で追跡できる試験管内実験系を構築し、これに6000種類あまりの化合物を添加、相分離を阻害する分子を探索している。最終的に最も活性が高いと特定されたのが、既にMEK阻害剤としてメラノーマなどに使用されている cobimetinib だった。

構造解析では、他の阻害剤と同じで cobimetinib もTEADのパルミトイル酸による分子安定化ポケットにはまり込むことでを、相分離に基づいて進むYAP/TEADの複合体形成を阻害し、細胞の増殖やアポトーシス抑制に必須の分子の転写が抑えられ、最終的に細胞死に陥ることを明らかにする。

薬剤開発についてはここまでで、後は cobimetinib の効果の追求になるが、新しいチャレンジの結果引き当てたのが他社により既に開発された化合物というのは残念だっただろう。しかし、ガン制御という点では極めて重要な発見と言える。即ち、YAP・TEAD経路が特にRAS/MEK阻害剤抵抗性を獲得したガン細胞で上昇しており、ドライバーの阻害時にガンが増殖を維持するための一種の駆け込み寺といえるメカニズムになっているからだ。この研究ではMEK阻害剤耐性ガンの増殖抑制効果で比べると、cobimetinib が、他のYAP/TEAD阻害剤より強いことを示して、YAP/TEAD阻害剤としての効果の高さを強調するだけで終わっているが、これだとcobimetinibのデュアルアクションの利点を直接示すものではない。と言うのも、最近はではドライバー阻害の後駆け込み寺に増殖機構が逃げたところでYAP/TEAD阻害を行うのではなく、最初からMEKシグナルの阻害剤とYAP/TEAD阻害剤を併用することで、駆け込み寺が出来ないようにする治療が重要ではないかと考えられるようになっている。とすると、それ自身でMEK阻害剤とYAP/TEAD阻害剤のデュアルアクションを持つ cobimetinib は一つで併用効果が見られる理想の薬剤になる。その意味で、既に存在するMEK阻害剤+YAP/TEAD阻害剤と、cobimetinib単独療法を比べ、どちらも同じ効果があるかを調べる実験を是非加えてほしいと思った。

この研究では代わりに、多くのケースでYAPの過剰発現が見られ、YAP/TEAD阻害剤の開発が期待されている肝臓ガンモデルを用いて、cobimetinibが増殖抑制効果があること、そして肝臓ガンに既に使用されている様々なチロシンキナーゼを抑制するsorafenib、あるいはlenvatinibをcobimetinibを併用することで、単独治療より高い移植肝臓ガンを抑制することが出来ることを示している。おもしろいと思うのは、sorafenib阻害ではYAP/TEAD活性化が起こるのに、lenvatinibでは活性化されないが、同じように併用効果がある点だ。この結果は、肝臓ガンの新しい理解につながるのかもしれない。

以上が結果で、人間のガンを使っていても全て動物実験なので、同じことが人間でも言えるのか治験が必要だ。幸い、coimetinib自体はMEK阻害剤としてFDAに認可されているので、治験へのハードルは低く、個人的には多くのRAS/MEK経路のドライバーを使うガンで治験が進むことを期待している。

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