Natureでは日本時間の木曜日に新しい論文がオンライン掲載される。驚いたのは今週の発表された生物系論文の中に7報近くのAI 論文が含まれていたことで、3報は Baker 研からのタンパクデザイン、1報はマウスのボディーマッピング AI、そして実験室での AI Agent 関連の論文が3報も含まれていた。まさに時代の変わり目にいることを感じている。今日、明日と学生さんや研究者に話をする機会があるので、この感覚を是非伝えたいと改めて感じている。
今日まず紹介したいのは AI サイエンティストについての研究を行っている Future House と Edison Scientific の研究者による論文で、いわゆる AI Agent の実験室への導入について研究している。タイトルは「A multi-agent system for automating scientific discovery(複数のエージェントによる科学的発見の自動化)」で、5月19日 Nature にオンライン掲載されている。同じ号に Google の研究者が Gemini をベースにした実験アイデアの生成について、「Accelerating scientific discovery with Co-Scientist (Co-Scientistを用いて科学的発見を加速する)」も発表されているが、素人目ながら Future House の研究がより具体的で包括的なのでそちらを紹介する。
AI の発展はGPTやジェミニといった汎用モデルの開発だけではなく、実に様々な分野で多くの特異的モデルが開発されている。特に生命科学では、文献検索からアイデア生成、さらに実験の計画からデータのまとめ、解釈、そして論文作成まで、多くのモデルが開発されている。従って、必要なモデルを集めて、目的に対する答えを探る AI Agent の開発が重要になる。隠居暮らしの私は研究現場で使うことはないが、Claude と Open AI を組み合わせた AI Agent の力には驚いており、実験室で使うのは当然の流れだと思う。
この研究では、研究の目的をインプットすると、まず文献検索から様々な可能性を生成する PaperQ2 をベースにしたモデルに、これまでの研究に基づく実験の可能性を生成させ、提案された可能性をもう一度文献から深く検討し直して、優先順位や実験の方法について提案させ、それに基づいて実験を行った後、JupyterNote をベースにしたモデルを用いてデータをまとめて解析し、次の実験へつなげる3種類のモデルを使った AI Agent を設計している。ポイントは、完全自動実験システムではなく、それぞれのモデルをつなぐのは人間で、AI Agent から出てきたアイデアや解析を、もう一度吟味し直して最終結論を得るようにしている。その意味では、我々が他の目的で用いている AI Agent と同じで、わかりやすい。
このような研究で最も重要なのはわかりやすい例を示すことで、この研究では加齢黄斑変性症 (dAMD) の新しい治療方法開発を目的としてこの AI Agent の実力を示している。
まず、dAMD の治療薬の候補を文献サーチで探させると、151論文から10種類の化合物の候補がリストされ、一つ一つについて深く調べさせて蓋然性をランキングすると、トップランクとして網膜色素上皮の貪食能を高める薬剤が効きそうだと答えが返ってくる。そこで、このアイデアの蓋然性を再度評価させるとともに、現存の薬剤から使えるものをリストするよう指令を出すと、最終的に30種類の薬剤と、それぞれについての詳しい解説が出てくる。さらには言語モデルを用いて可能性のランク付けすら出来る。この結果、4種類の単剤と、1種類の合剤が色素上皮の貪食を上昇させるという最終提案が出る。
次にこの提案を実験に移すときの実験プロトコルも、この AI Agent から指示される。ここでは、Flow cytometer や single cell RNA sequencing や iPS細胞由来の色素細胞を使うように指示が出るが、これについては人間の方で、細胞株と通常の RNA sequencing を用いた方法に変えて解析を行い、その結果は一般に使われている Jupyter Notebook をベースにしたモデルで解析させ、最も効果がある薬剤としてROCK阻害剤Y-27632が最終候補として示される。
最終候補の評価のための実験も提案させることが出来、この場合提案通り実験を行い、アクチンフィラメントの再構成に関わる分子、オートファジーなどに関わる分子とともに、ApoE の受容体ABCA1の発現上昇という新しい発見までつながっている。
最後にY-27632に類似の効果を持つ薬剤を検索させ、なんと我が国発の緑内障治療薬ripasudil がリストされ、色素細胞の一時培養に加えた実験を行うと、ripasudil が Y-27632 を凌駕するという結論が出、ripasudil が治験候補と結論づけられる。
以上が結果で、今皆さんが AI Agent を使っておられるのと同じように、人間の仕事をより効率化し、しかも考えていなかった新しい発見まで可能になることを示しており、より実験室に馴染むAIの利用が提案されたと思う。おもしろいのは、PaperQ2 などのモデルを OpenAI に変えると、ROCK阻害剤が提案されなかった点で、何が最も効率的なのかについてはまだまだ人間が決める必要がありそうだ。
Googleからの論文と比較したとき、Future House の論文がわかりやすいのは、要するに目的をはっきりさせ、具体例でAI Agentの力を示したことだが、今自分が現役ならどうすればいいのかと考えてみると、大変な時代だということもよくわかる。

人間の仕事をより効率化し、しかも考えていなかった新しい発見まで可能になることを示している!
Imp:
創造する機械
学校、教師の意味さえ変えていきそうな勢い。
わざわざ大きな研究室なんぞ構える必要性さえない時代の到来?
ideaとAIとのコミュニケーション能力さえあれば、誰にでも新治療法開発ができる。。