AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 2月9日:福島原発からカナダへ(米国アカデミー紀要掲載論文)

2月9日:福島原発からカナダへ(米国アカデミー紀要掲載論文)

2015年2月9日
SNSシェア

2011年3月11日の福島第一原発事故では1−3京のセシウムが大気や海洋に放出された。それまで唯一の原爆被爆国で、第五福竜丸など核実験でも被害者であり続けた日本が、核については加害者に変わった瞬間だった。この転換が意識にあるせいか、私自身も雑誌を見ていてFukushimaがタイトルにあると気になる。ただ、加害者/被害者といった政治的な問題を離れて、実際には福島原発の未曾有の事故は様々な角度から科学的に追跡されている。今日紹介するカナダのベッドフォード海洋研究所からの論文は、福島からのセシウムが海流に乗ってカナダに到達する過程を調べた論文で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Arrival of the Fukushima radioactivity plume in North American continental waters (福島の放射性汚染物が北アメリカ大陸の水域に到達した)」だ。研究は単純だ。福島第一原発の事故後すぐに、海流によって福島からカナダへと運ばれてくる放射性汚染物の影響を調べるプロジェクトを立ち上げ、カナダのバンクーバー島沿岸から1500km沖まで、26箇所の水質汚染検査ステーションを設置し、水を汚染しているセシウム量を図ったというだけの研究だ。各ステーションでは水面から100mづつ水深1000mまで測定している。この測定ラインは、カナダ沖を北上する日本からの海流を横断するように設計されている。それぞれの測定ステーションで測定されているセシウム134とセシウム137だが、134の方は半減期が2年と短く、また原子炉でしか生まれないので、これが検出されると確実に福島からの汚染物質であると特定できる。一方、137の方は半減期が30年と長く、これまでの核実験などで生まれた汚染物質の影響が残っている。実際1960年代には我が国の海水には現在の10倍に当たる10−20ベクレル立米のセシウム137が含まれていたようだ。大気圏核実験が中止されたおかげで、現在では1.5ベクレル立米にとどまっている。福島第一原発からは両方のセシウムがほぼ1:1の比で出たので、セシウム134を正確に計れると、福島からのセシウム137を特定することが可能になる。さてカナダ沖への到達だが、2012年からセシウム134の上昇が観察されるようになり、2014年には2ベクレル立米に達している。今回の研究で、この汚染は水深100mまでであることもはっきりした。幸いなことに、海流の北への流れが強いため、沿岸部の汚染は1500km沖と比べると低い。今後も沿岸部では上昇が続くと思われるが、これまで観察されたデータはRossiという研究者の予測値に近い。したがって計算上、半減期の長いセシウム137も2015年にピークを迎えてあとは低下すると予想できるようだ。さらに、ピークレベルも大気圏核実験が行われていた当時の10%程度にとどまるという結果だ。論文でもはっきりと人体への影響は少ないだろうと結論している。結果はこれだけだが、加害国としては胸をなでおろすことのできる論文だった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.