ちょうど二日前、AlphaFold アーキテクチャーの新しい利用方法、MSA Pairformerを紹介した。本来アミノ酸配列から3次元構造を予測するAlphaFold2の2種類のエンベッディング、multiple sequence alignments とpair representationだけを使って、異なるタンパク質同士の相互作用を解析する方法だ。具体的な構造をスキップする英断に感心した。
ただ同じような決断は、明確な目的を持ってAlphaFoldを利用しようとするときに必要なようで、今日紹介する北京大学からの論文は、CRISPR-Casの特異性を上げてoff targetの編集を減らすためのCas設計をAlphaFold3をベースに追求して、構造予測前のpair representationを用いて特異性の高いCasを設計できることを示したおもしろい研究で、7月22日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Precise DNA base editing using AlphaFold3-based contact modelling(AlphaFold3をベースにしたコンタクトモデルにより正確な遺伝子編集が可能になる)」だ。
遺伝子編集には標的に結合するガイドRNAが用いられるが、これがミスマッチ部位でもCasをガイドしてしまうと、標的でないoff target編集が起こる。ただ、闇雲に起こるわけではないので、どこでoff targetの編集が起こるかをまず特定し、on target部位と比べる必要がある。ただ、遺伝子切断活性のあるCas9を使うと、切断後の修飾などon及びoff target部位を正確に特定できない。そこで、この研究ではCas9の切断活性を除去し、アデニンをイノシンに変えるデアミナーゼを結合させて、一塩基の変化でCasが認識した部位が正確に特定できるようにしている。これにより、いくつかのガイドについてon targetとoff targetの編集サイトをリストすることができた。
そこで、核酸とタンパク質の立体構造を決めることができるAlphaFold3を使って、off targetであるにもかかわらず編集が起こった構造学的基盤を特定しようとした。まず、デアミナーゼがCasに結合したままでは、AlphaFold3と言えども、DNA、ガイドRNA、Cas9が集まる構造を正確には示せなかったようだ。幸い、Cas9のみにすると、結合部位の立体構造がわかり、ガイドと標的が完全に結合していないが、結合コンプレックスが構造的によく似ていることがわかった。
AlphaFold3はsingle representationと呼ばれる分子構造情報のエンベディングとアミノ酸残基同士のpair representation(2日前のMSA pairformerについての解説を参照)を用いているので、onとoffでの違いをエンベッディングのベクトル距離で探ると、pair representationから抽出できるcontact probabilityが、on とoffの違いを敏感に区別出来ることを発見する。おもしろいのは構造にしてしまうと見えない差が、pair representationレベルでは見つかる点で、計算もしやすいことから今後タンパク質の解析に使われていく予感がする。以前、児童精神医学のカルテを、小さな言語モデルでエンベッディングして文章をベクトル化することで、カルテを読むだけではわからないコンテクストが、容易に発見できるという論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/26447)、デコードする前の潜在空間の情報量のすごさに感心する。
これに基づいて、contact probabilityに関わる領域に変異を入れて編集の特異性を上げる可能性を調べ、on targetに対する編集効率はそのままで、off target編集を抑えることが可能なこと、さらに同じ方法をCas9だけでなく、Cas12にも利用できることを明らかにしている。
以上が結果で、2日前に紹介した論文と、目的は違うがAlphaFoldなどを構造予測に使うのではなく、構造予測を支えるpair representationを使ってタンパク質を解析・設計するという点でよく似ているので紹介した。両方の論文を読んで感じるのは、生命科学の明確な目的を持って生成AIを使うなかで、AIの問題点をしっかり把握し、自分流に改善することの重要性だ。これには何よりも若手研究者の育成が重要で、どちらも長期の「骨太の計画」が必要だと思う。さて、だれが立案するのか?
