膜上に設置した孔にDNAを通した時の電流の変化からDNA塩基を区別するナノポアシークエンサーは、長いDNAストレッチを読むことができるシークエンサーとして定着している。この物理的性質を利用して分子を区別する方法は核酸だけでなくアミノ酸にも使える可能性は高く、ナノポアを利用するアミノ酸配列解析法の開発が行われている。このブログでも2021年11月にオランダデルフト大学から発表された、ポリペプチドをナノポアを通す方法についての論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/18292)。
今日紹介する南京大学からの論文は、ポリペプチドを孔を通して解析するという核酸での成功体験を完全に捨て去って、ナノポアをセンサーとして使うアイデアでアミノ酸配列決定法確立に大きく近づいた研究で7月29日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Sequential reading of a stepwise-shortened peptide immobilized on nanopore(ナノポアに固定したペプチドを順番に短くすることでアミノ酸配列を解析する)」だ。
アミノ酸配列決定には20種類のアミノ酸を物理的に区別するナノポアが必要になる。このグループは2023年に、自然界に広く分布する非定型抗酸菌の一つスメグマティスのporinAにnickel-nitrilotriacetic acid(NTA)を結合させることで、ナノポアにアミノ酸をトラップすることが出来、この時ナノポアの電流変化をAIを用いて解析することで20種類のアミノ酸を区別出来ることを発表している(Nature Methods Vol21, 92-101)。
この基盤の上にアミノ酸配列を連続的に読み取るためにいくつかの新しいアイデアを実現したのがこの研究になる。この方法では孔の端にあるNTAにアミノ酸が結合しその結果起こる電気的変化を読み取る。従って、ペプチドを穴を通して順番にアミノ酸を読むことは不可能になる。そこで、ペプチドのc-末端にシスティンを付加して、これと共有結合するリンカーをナノポアに結合させ、まずペプチドがナノポアに固定されるようにした。こうしてC末でナノポアに固定されたペプチドのN末端をNTAでトラップして、この時の電気変化を測定し、N末端のアミノ酸を読み取る。
ただ、このままではナノポアは同じアミノ酸に占有されてしまうので、これを切り離して次のアミノ酸へ移るために、N末端のアミノ酸をペプチダーゼで切り離す方法を開発した。実際には、ナノポアを支える膜にペプチダーゼを結合させ、N末端を順番に切り離す方法を開発した。
この結果、12個のアミノ酸が並んだペプチドでも連続的にアミノ酸配列を決定できることを明らかにしている。
問題は自然界のアミノ酸には様々な修飾が加わっていることで、例えばメチル化やリン酸化などが加わっていると、ペプチダーゼが働けなくなるなど、途中で解析が止まる。従って、あらかじめ様々な修飾を外しておく必要がある。ただ将来、修飾に関わらずアミノ酸を切り離せる酵素が見つかればこの問題も解決する。
最後にさらに正確を期すため、3アミノ酸をセットで検出(ABCDEFGという並びを、ABC,BCD,DEF,EFGとセットにして電気的変化を調べる)方法も可能であることを示している。これは余計複雑にするように思えるが、3アミノ酸の並びの総数は高々8000種類なので、AIで正確に区別出来ると考えている。
以上が結果で、穴を通すと言う考えを捨てたことで、アミノ酸を直接ナノポアで解析する方法に大きく近づいたと思う。
