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2月18日:突然変異の順序と発ガン(2月12日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2015年2月18日
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ゲノム解析が進んだおかげで、ゲノム上に変異が集まることが発ガンに必要なことは具体的に理解できるようになった。また、特定のガンに特定のセットの遺伝子が関わっていることも明らかになってきた。しかし、通常変異の起こる順序が最終結果に影響があるとは考えてこなかった。今日紹介する英国ケンブリッジの幹細胞研究所からの論文は、突然変異のできる順序がガンの性質を大きく変えることを示す研究で、2月12日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Effect of mutation order on myeloproliferative neoplasm(突然変異の順序の骨髄球増殖性腫瘍の性質への影響)」だ。骨髄の増殖疾患の多くは、骨髄幹細胞の増殖異常に起因する。ガンのゲノム解析が進んだおかげで、この病態の多くにJak2が活性化される突然変異とTET2遺伝子が不活化する突然変異が起こっていることがわかっていた。また、Jak2突然変異は現在治療のための重要な標的になっている。Jak2は細胞の増殖分化に関わるキナーゼで、TET2は核酸についたメチル基を水酸化してハイドロオキシメチルに変換する酵素で遺伝子のエピジェネティック制御に関わっていることがわかっている。研究では、両方の突然変異を持つ患者さん24人が選ばれ、骨髄から採取した個々の幹細胞のコロニーを試験管内で形成させ、その一個一個のコロニーの遺伝子型を調べている。すると、両方の遺伝子が変異しているコロニーや、正常のコロニー(正常幹細胞由来)とともに、どちらかの遺伝子だけに変異が見られるコロニーも発見される。ただ、個々の患者さんで見ると、Jak2の変異とJak2+TET2の変異があるケースと、TET2の変異とJak2+TET2の変異があるケースに分かれる。即ち、例えばJak2変異だけの細胞とJak2+TET2遺伝子両方に突然変異がある細胞が混じった患者さんでは、まずJak2に変異が起こり、その上にTET2が変異を起こしたことになる。これをJak2-first、他方をTET2-firstとして分類して病態を比べた。すると、TET2-firstの患者さんは比較的高齢で、幹細胞が増えており血栓を起こす頻度は低い。一方、Jak2-firstの患者さんは若く、分化した巨核細胞や血液細胞の増殖が強くて血栓を起こす確率が高く、赤芽球増加を併発することが多い。すなわち、最終的には同じ突然変異を持っていても、どちらの変異が先に起こったかによって病態が全く異なるという結果だ。メカニズムについては推察するほかないが、最初の変異により細胞の転写ネットワークが決まってしまうと、他の変異の効果はその文脈に制限されてしまってしまうためだと思われる。今後新しいゲノム診断方法として定着する気がする。また、メチル化阻害剤の使い方も含めて、病態に合わせた治療も可能かもしれない。しかし、患者さんの骨髄の中にこれほど多様な細胞が混在していることは驚きだ。ゲノムとエピジェネティックスが複雑に絡み合ってガンができていることを再認識する論文だった。

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