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8月30日 「遺伝子名」から解放され「塩基配列」ベースに single cell RNA sequencing を解析するモデル Malva の誕生(8月26日 Nature オンライン掲載論文)

2026年8月30日
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塩基配列に我々は様々な意味を付加したうえで理解する。人間の頭では、配列だけ見ても通常何のことかわからないから当然だ。例えば特定のゲノム配列にネアンデルタール人とか、デニソーワ人、あるいは縄文人や弥生人と意味づける。しかし、このような意味づけされたレファレンスを使わずに、ゲノム各部位の系譜をたどることで、ホモサピエンスと交雑した未知の人類が存在する可能性を示唆した論文を昨日は紹介した。そして最も広く行われている意味づけが遺伝子名だ。実際自分のガンを考える時でも HRBB2 や AR が発現しているので導管ガンに近いと考える。ただ自分で遺伝子発現を解析してみると、必ずレファレンスゲノムの上にショートリードの配列がマップされ、その頻度が計算される。即ち、一度は遺伝子名に還元するように解析ソフトが出来ている。このように一度遺伝子名にまとめるために計算コストは急上昇するだけでなく遺伝子配列に表現される様々な違いもしばしば捨てられてしまう。

遺伝子配列をアノテーションすることで膨大な計算コストが生じる single cell sequencing 解析を対象に、遺伝子名への還元をスキップして、配列だけで細胞を定義する Malvabと呼ぶモデルを開発したのが今日紹介するドイツ・ベルリンのマックスデルブリュックセンターからの論文で、8月26日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Ultrafast and reference-free sequence discovery in single-cell data(単一細胞データからレファレンスなしで配列を発見する超高速のインデックス)」だ。

Single cell 解析は細胞の関係図や分化チャートによる全体の俯瞰が出来るのが重宝されているが、せっかくデータには含まれているのに、情報を引き出すのが苦手な課題が多々ある。例えば、ガン組織でどの細胞が Ras変異を持っているかを調べようとすると、一度遺伝子名にリードが還元されていると、この課題は難しい。ところが Malva は遺伝子名へのアノテーションを完全にスキップして、それぞれの細胞内の遺伝子配列のリードだけでデータ処理する sequence centric なシステムなので、これが簡単になる。

では Malva はどのように構築されているのか。まず、インプットする single cell sequence データは、各リードを24塩基づつに分けてストーレージする配列比較がしやすい K-mer 法を用いている。例えば100bp遺伝子リードがあると、4つの配列にわけ、それぞれに細胞や組織のアノテーションを付加してインデックスしている。即ち、配列は遺伝子名ではなく、細胞のアノテーションでくくられ、この配列がどの細胞に存在するかがインデックスされる。細胞側のアノテーションが一致すれば、このインデックスはほぼ無限に拡大することができる。また、人間から大腸菌まで、正常から異常まで、全く同じワークステーションにストーレージ出来る。

では、このインデックスをどのように使えばいいのか。例えば Ras を発現している細胞をピックアップしたいときはどうすればいいのか? これには Ras を配列に変換することが必要なので、インプット前に配列がデータベースから得られるようにしてあり、そこから得られた配列は、1塩基づつずらした24gpを生成、その配列をインデックスと照合することで、例えば Ras に相当する K-mer がある細胞にいくつ存在するかを調べることができる。このようにストーレージには配列をずらさないで分けて K-mer を作成し、調べるときには調べたい配列から1塩基づつずらしてサーチすることで、ある細胞にどのぐらい Ras が発現しているかも推定することができる。そして何よりも、k-mer は配列なので、Ras 突然変異を持つ細胞だけをデータから簡単に探し出すことができる。

単一細胞データは先に述べたように細胞間の関係の俯瞰図を作るという意味がある。K-mer 配列の入った一つの袋として細胞を扱うと、結局遺伝子のアノテーションをし直すなどの膨大な計算が必要になってしまう。代わりに、Malva ではよく似た配列をまとめて一つのユニットとし、10万個程度のユニットに圧縮してしまうことで、計算を容易にしている。実際、通常の細胞クラスタリングと比べても、ほぼ同じような結果が得られるので、Malva でも細胞間の関係を調べることができる。しかも、配列ベースなので、例えば遺伝子多型を同時に比べたりも出来る。

以上、遺伝子名へのアノテーションをスキップし、配列→細胞の種類という辞書を作って、質問は前もって24bpに書き直してインデックスを使うという逆転の発想で計算コストの低い素晴らしいインデックスが完成している。さらに、k-mer と言う膨大な配列コーパスを10万程度のユニットにまとめる機能を保たせて、配列だけから細胞を分類することも可能になっている。

論文ではこれを使って、いままで難しかった、突然変異を持つ細胞を選び出す、スプライシングにより発生する環状RNAを検出する、更には細胞内への細菌などのコンタミネーション、などなどに便利に使えるかが示されており、是非一読を勧める。私が現役だったら、絶対使うと思わせる便利なインデックスが出来た。AI時代に逆行するというより、 AI時代だからこそ必要とされるインデックスを提案した優れた論文だと思う。

少し褒めすぎた感もあるが、実を言うとこの論文の責任著者は私が留学したRajewskyの息子Nikolausで、私の留学時代は音楽家を目指していた高校生だったが、今やドイツを代表するインフォーマティストに成長したのをみて、ついつい甘くなったのかもしれない。

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