リボゾームはmRNAと結合してコードをアミノ酸配列に変える翻訳が行われる場所だが、基本的には転写されたあらゆるmRNAと結合して翻訳するように出来ている。実際には30SリボゾームRNA(rRNA)が細胞中でmRNAと衝突を繰り返しているうちにmRNAの開始コドンの少し上流にあるRibosome binding siteと結合することで、翻訳が開始する。多くのmRNAに対応するユニバーサルな方法として全ての生物が採用している。
これに対し、一つのリボゾームを特定のmRNAの翻訳だけに使う人工的な試みが行われており、直行型翻訳システムと呼ばれている。宿主と独立した翻訳システムによって、通常の翻訳では使われない非天然アミノ酸を使ったペプチドを作らせることが主要な目的だが、翻訳効率はまだまだ低い。
今日紹介するイリノイ大学からの論文は30S rRNAのサブユニット16S rRNAにmRNAを共有結合させることで、一つのmRNAの翻訳だけを行うリボゾームを可能にするための基礎的検討を行った研究で、9月2日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Rewiring the ribosome to translate proteins encoded in its own RNA(リボゾームを自分のRNAだけを翻訳するように操作し直す)」だ。
この研究ではリボゾームとmRNAが結合する相補的構造をそのまま一つのDNAとして統合することで、mRNAをリボゾームから離れなくすることで、一つのリボゾームが一つのmRNAだけを転写するシステムの条件を探るところから始めている。蛍光タンパクGFPのmRNAを16S rRNAと一つのDNaとして結合させ、その下流にtRNA及び23S rRNAを結合させて、ホストの体内で50Sと結合してmRNAを翻訳するコンストラクトを作成している。この時、16SとmRNAをつなぐリンカー配列の異なる1000種類のコンストラクトを大腸菌に導入し、高い傾向を発するリンカーを選んでいる。この時、他のrRNAを使っていないことを確かめるため、リボゾームでの飜訳を停止させるスペクチノマイシン抵抗性の大腸菌を用いることで、直行型飜訳をスペクチノマイシンで停止させるよう設計している。即ち、通常では蛍光を発し、スペクチノマイシンで蛍光が消えるリンカーを探している。
実験データを見ると一種の奇跡と行ってもよく、1000種類のリンカーの中で1つだけがこの条件にかなって、高いレベルの蛍光を発していた。このリンカーの特定がこの研究の全てと言える。このコンストラクトで、30S rRNAが形成され、ホスト内の50S rRNAと結合して機能的ユニットを形成できることを確認した後、同じリンカーがGFPだけでなく長短異なるタンパク質を合成できることや、2種類のタンパク質翻訳ユニットを一つの大腸菌に導入して、2量体を効率よく作らせられることを示している。即ち、今後直行型飜訳システムとて利用できる。
後は、本当に一つのmRNAだけを繰り返し翻訳しているのかを調べるため、翻訳が途中で止まるmRNAを用いて、止まったところでrRNAを取り出し、間違いなく一つのリボゾームが一つのタンパク質だけ合成していることを確認している。
他にも、完全に試験管内での翻訳にも使えること、更にはこのグループが開発してきた16Sと23Sを合体させた30SシステムRibo-Tにも結合させられることを示しているが、詳細は割愛していいのではないだろうか。ともかく、1リボゾーム、一タンパク質という自然にない翻訳が可能になった。
このように自然にないことを強調したが、生物が生まれる前の地球に存在したRNAワールドがタンパク質を基本にした生命へと変わるとき、アミノ酸と核酸配列の間のシンボル関係が生まれるとともに、翻訳の鋳型を安定的に翻訳マシナリーに留めることは、mRNA濃度の低い環境では大きな課題だったはずだ。そう考えると、最初はたまたま翻訳マシナリーと一体化していたRNAを鋳型として使い始め、その後mRNAとして独立したと考えるのが自然だ。従って、このような研究は生命誕生を考える上でも重要な研究分野と言える。
