ノルエピネフリン(ノルアドレナリン:NE)は交感神経が、末梢の様々な細胞に働きかけて全身の調節を行う神経メディエーターだが、同じようなNE神経が脳内にも存在しており、交感神経と同じように、シナプスを介する神経伝達ではなく、NEの分泌を通し神経やグリア、更には血管にまで働いて、脳の覚醒状態やアテンションを高める働きがあることが知られている。
今日紹介する米国アレン研究所からの論文は、青班核から脳内に投射するNE神経の構造と機能を一から基礎的に調べ直した研究で、NE神経についてなるほどと理解が進む論文で、9月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Topographic structure and function of locus coeruleus noradrenaline neurons(青班核のノルアドレナリン神経のトポロジー構造と機能)」だ。
まずNE合成の律速段階の酵素を用いてNE神経を標識する方法を開発し、片方の半球の青班核からの神経投射を見ると、脳内のほとんどの場所に神経線維が投射されているのが見事に示されている。
ただ全体を眺めるのではなく、一本一本の線維を追いかけるとNE神経の特徴を見事に表現した構造が見えてくる。まず、青班核の場所に応じて投射する場所が決まる。例えば脳皮質に投射するのは青班核の背側、小脳へ投射するのは腹側中部、そして脊髄に投射するのは腹側に神経が存在している。
さらにおもしろいのは投射で、他の脳神経と異なり特定の神経細胞へシナプスを形成するわけではないので、なんとほとんど分岐のない長い軸索を領域全体に言ったり来たりしながらカバーする。なんと一番長い軸索は70cmを超える。マウスの脳の大きさを考えると、その長さに驚嘆する。NE神経は軸索上に数珠のようにつながるバリコシティーからNEを分泌するので、この構造はまさに一本の神経が領域全体をカバーして、脳細胞全体の状態を調節するという目的にドンピシャで合致しており納得する。
青班核のNE細胞から核を取り出し、single nucleus RNA sequencing で遺伝子発現を調べると、決して単一な集団でなく、極めて多様な細胞集団であることがわかる、この多様性を、組織上で多くの遺伝子の発現を調べる Merfish で調べると、青班核の背側から腹側にかけて、まさにモルフォゲン勾配でも存在するかのように(おそらく存在していると思うがこの論文では研究されていない)、それぞれの遺伝子が勾配を持った分布を示している。この遺伝子発現の違いにより投射の場所が決まっていると思うが、メカニズムについてはこれからだろう。これまでの神経節後の選択性とは全く違ったメカニズムが今後明らかになると期待される。
最後に、NE神経の反応を電気的に、あるいは光遺伝学的にレコードして、学習した結果から行動を決定する課題を行わせるときの反応を調べている。この過程に関わる脳皮質に投射した神経の活動は、同じ行動が続くときより、違う行動をとるときに興奮が高まり、また予測に反する結果を得たときに反応が高まる。これまで指摘されてきたように、興奮状態で脳内を調節して、新しい記憶を形成するのに役立っていることがわかる。
以上が結果で、脳全体をこのように調節する青班核へのインプット、更には投射場所の異なる青班核細胞についての光遺伝学的機能検査など、おもしろい研究が続く予感がする研究だった。なんと言っても、構造をはっきり示されることで脳内NE神経の機能がしっかり理解できる論文だった。
