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2月23日:ALS を理解するための大規模ゲノム研究(Science オンライン版掲載論文)

2015年2月23日
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ALSは今も医学の介入を拒否し続けている難病だ。確かに他の難病と比べても研究者の数は多く、様々な角度から研究が日夜続けられているが、残念ながらまだ切り札となるような治療法は開発されていない。しかし、優秀な研究者によって日夜確かな努力が続けられていること自体が、患者さんたちにとっての大きな励ましになること間違い無い。今日紹介する論文もそんな努力の例だろう。米欧の40近い研究施設が共同で患者さんのゲノムをもう一度見直した研究で、Scienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Exome sequencing in amyotrophic lateral scleraosis identifyies risk genes and pathways (ALS患者さんのエクソーム配列決定により、リスクになる遺伝子や反応経路が明らかになる)」だ。遺伝的変異がはっきりしている10%程度の症例を除いて、大半のALSは孤発性、すなわち遺伝性はなく、誰でもがかかる可能性を持っている。それでも遺伝的変異のはっきりした症例は、分子についての手がかりがあるため、病気発症のメカニズムを知るためには重要だ。このため、できるだけ多くのALS発症に関わる遺伝子を特定する試みは繰り返し行う必要があるだろう。この要請を受けて、今回2874人の症例のエクソーム解析(タンパク質に翻訳される部分の遺伝子配列決定)が行われ、6500人の正常人データと比べられている。おそらくこの規模でエクソーム解析が行われたのは初めてのことだろう。この結果の大半は、これまで報告されてきた遺伝子の確認と、正確な頻度の測定だ。例えば最も有名なSOD1遺伝子はこの研究でも最も相関性の高い遺伝子として特定され、約0.9%のALS患者さんで突然変異が見られる。今回大規模にエクソーム解析を行うことで、これまで知られていた遺伝子以外にも、TBK1と呼ばれるキナーゼが見つかってきた。この遺伝子について反応経路解析をしてみると、もともとALSに関連すると知られていたoptineurin, SQSTM1と呼ばれる遺伝子と、タンパク分解のためのオートファジー経路で相互作用があることが分かった。ALSで神経細胞変性が起こる原因として、神経細胞がタンパク質を処理できずに変性するとする見方と、神経の周りのグリア細胞が活性化されて神経細胞を障害するとする見方の2種類が存在していた。面白いことに、このTBK1はオートファジー経路だけでなく、NFκBやインターフェロンを介する細胞障害性反応にかかわりうる。とすると、どちらの説が正しいかどうかではなく、病気の進行には両方の経路があり、ともに治療の標的になるかもしれない。他にも、リボゾームのリサイクル経路に関わるTARBP遺伝子の突然変異部位の解析も詳しく行われている。この分子は遺伝背景を問わず90%以上の患者さんの神経細胞でこの分子が含まれる封入体が形成されることから、蛋白合成からリボゾームのリサイクルまでの過程も発症に関わる重要な過程であることが推定できる。これ以上詳しい結果を列挙してもあまり意味がないだろう。大規模エクソーム解析により、調べる遺伝子のリストはできた。今後は、この遺伝子と発症との関わりを詳細に渡って調べ、治療可能性を探すことが必要だ。そのために、iPSもあるが、このようなゲノム研究と組み合わせてないと、その力は発揮できない。せめてこれらの遺伝子については、希望する患者さんについては我が国でもエクソーム解析を無償で行い、治療の糸口の発見に役立ててほしいと思う。

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