AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 9月29日 気になる臨床研究2題(9月24日 The New England Journal of Medicine 掲載論文他)

9月29日 気になる臨床研究2題(9月24日 The New England Journal of Medicine 掲載論文他)

2026年9月29日
SNSシェア

1月に一回はできるだけ臨床治験など直接治療に関わる論文を紹介したいと思っているが、今月は最近の The New England Journal of Medicine に掲載された2編の論文を紹介する。

最初は9月24日に韓国・延世医科大学から発表された論文で、心房細動で脳卒中の危険因子を持っている患者さんは、経口抗凝固剤によって卒中リスクを70%近く抑えることを示した研究だ。タイトルは「Anticoagulation for Atrial Fibrillation with Intermediate Stroke Risk(中程度の脳卒中リスクのある心房細動患者さんに対する抗凝固剤治療)」だ。

唾液腺ガンの術後ほぼ1ヶ月目に、意識を失う心房細動発作を起こして1日入院し、その後βブロッカーと脳卒中予防としてアピキサバン(エリキュース)を服用しているが、このタイトルを見て驚いた。と言うのも、この論文の対象はまさに私自身で、既にこの論文で検証されている治療をまさに受けている。当然自分が受けている治療は、とっくに治験で確かめられた結果だと思っていた。ところが2000人規模の患者さんを無作為化した臨床治験が、今頃臨床のトップジャーナルが掲載している。何を今更と驚いて読んでみた。

Introduction を読むと、我が国だけでなく、米国やヨーロッパの医学界は、脳卒中リスク(例えば糖尿病と高血圧)を持っている患者さんが心房細動発作を起こした場合、抗凝固剤を強く推奨していることは間違いない。しかし驚くことに無作為化した治験は行われていないようだ。この研究では脳卒中リスクを一つでも持っている患者さんで発作性、あるいは持続性の心房細動を持つ患者さん1800人を無作為に経口抗凝固剤投与、非投与に分けている。偽薬は用いていないが、元々様々な薬を処方されていると思うので、わざわざ偽薬の必要はないのかもしれない。それぞれを2年間観察して脳卒中の発生を比較している。

結果だが、両グループはそれぞれ902人、901人と母数に変わりはないが、抗凝固剤投与群では4例、非投与群では13例の脳卒中が2年間で発生している。即ち、70%もリスクを低下させた。一方心配される出血が止まり憎くなることによる問題は、ほとんど非投与グンと変わらなかったという結果だ。他にも、卒中のリスク因子ごとに効果を調べているが、割愛する。学会により推奨され、広く臨床応用が進む治療法について、コントロールを置いた治験が行われていなかったというのに最も驚いた。逆から考えると、大規模治験至上主義を今後検討していく余地があると言うことになる。

もう一報は8月28日に発表されたLetterで、昨年同じグループが発表した、肝臓細胞のANGPTL3遺伝子を CRISPR/Cas9 でノックアウトした第一相治験の論文のフォローアップで、最初の論文は180日までの観察、今回のレターは360日までの観察で、治療効果が持続していたという結果だ。タイトルは「Durability of CRISPR-Cas9 Gene Editing Targeting ANGPTL3 with CTX310(CTX310を用いたANGPLT3を標的にしたCRISPR/Cas9遺伝子編集法の効果持続性)だ。

ヒトの遺伝子解析から、変異により高脂血症が防げる遺伝子がいくつかリストされているが、このグループは通常の薬剤でコントロールできなくなった高脂血症患者さんの肝臓から、このような遺伝子、ANGPTL3やPCSK9遺伝子を CRISPR/Cas9 を用いた遺伝子編集で肝臓からノックアウトする第一相治療を相次いで発表している。

治療の発想自体は新しいものではなく、モノクローナル抗体やRNA阻害剤を用いた治療が開発されているので、遺伝子編集法が検討されるのも当然だと思う。このグループが用いる編集法は、CRISPR/Cas9とガイドRNAをAPOEと結合するリピッドナノ粒子に包んで静脈注射する方法になる。今回のレターの結論は、期待通り一回の治療で効果は1年間続き、その後の副作用はなかったという結果でこれだけ読むとなるほどで終わる。

ただ個人的に気になったのは、Cas9をそのまま遺伝子編集に用いている点だ。すぐに副作用として現れなくてもオフターゲットの遺伝子切断が起こっている可能性があるのに、前臨床でほぼ観察されないとしてCas9利用が許可されている点に驚いた。最近の論文を読んでいると、Cas9ではオフターゲット編集があるのをを当然として新しい編集方法が開発されている。結局は確率論で、低い確率なので治療効果は良くても本当にこのままでいいのかと気になった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。