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10月9日 c-Kitが血管でも機能している(10月1日 Journal of Clinical Investigation 掲載論文)

2026年10月9日
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今日は一般的というより、より個人的興味で、熊本大学時代から長年研究の対象にしていたc-Kit分子についてのドイツ・ハイデルベルグ大学からの論文で、10月1日 Journal of Clinical Investigation に掲載された。タイトルは「Loss of Smad4 drives vascular malformations via c-KIT–dependent high–fluid shear stress mimicry(SMAD4の欠損は c-Kit依存的高流量ストレスを間違って誘導し欠陥構造異常を引き起こす)」だ。

この研究が対象にしているのはTGFβシグナル経路に存在する様々な遺伝子の変異によって起こる出血性の血管拡張症 (HHT) で、構造がよくわかる網膜で研究している。これまでの研究で、この異常は血流に対する血管内皮の反応閾値が下がるため、高血流に対する反応が起こり、例えばKLF4やPI3K経路が活性化することが知られている。

まず血管内皮細胞にフロー・ストレスを加える実験系で、Tgfβシグナルの下流SMAD4をノックダウンすると、メカニカルストレスに対する反応に関わるVEGFR/VE-Cad/ERK5/Akt/KLF分子カスケードが軒並み上昇する事を確認している。即ち、SMAD4シグナルはフローセンサーを抑えて、通常の血流にむやみに反応しないように抑えている。また、SMAD4遺伝子を血管でノックアウトされたマウス網膜で調べると、HHTと同じように毛細管の拡張が起こる構造異常を再現できる。

この時フロー・ストレスの感度が上昇する分子機構を探るうちに、なんと血管に発現するとは私も考えたことがなかった c-Kitが血管内皮で発現していることを発見する。そして、SMAD4 ノックダウンで発現が上昇し、SMAD4発現低下によるフロース・ストレス閾値低下に関わることを発見する。

SMAD4を血管特異的にノックアウトしたマウスモデルで見ると、驚くことに c-Kitが血管内皮に強く発現することがわかる。個人的感想を述べると、ちょっと免疫染色が雑な気がするが、試験管内の血管内皮細胞でも生化学的に確認されているので気にせず進む。重要なのは、HHT患者さんの鼻粘膜血管のバイオプシーでも、患者さんだけで c-Kitの血管での発現が見られることで、SMAD4シグナルの低下という非常事態でのみ、c-Kitが血管内皮に発現することがわかる。

では c-Kitは本当に機能しているのか?これを調べるために、試験管内の血管内皮細胞で siRNAを用いて c-Kit遺伝子発現をブロックすると、フロー・ストレスによるVE-cad/ERK5/AKT等のシグナルを抑えることができる。即ち、c-Kitがこれらシグナルのスイッチを入れている。ところが、この実験系に c-KitのリガンドであるSCFを加えたり阻害する実験系で、c-KitとSCFの結合はシグナルに全く関係ないことがわかる。一方、c-Kitのリン酸化機能を抑制する化合物を用いると、下流シグナルを抑えることができることから、この場合 c-Kitは本来のリガンドではなく、細胞膜内でおそらくフロー・ストレスのセンサーとして働いている SFK/VE-Cad/PECAM-1 /VEGFR2 の形成する複合体にリクルートされて働いていると考えられる。

最後にSMAD4 の血管内皮特異的ノックアウトで起こる血管構造異常を c-Kit阻害出来る化合物で正常化できることも示している。

以上が結果で、SMAD4 が欠損するという特殊な条件であるとは言え、血管内皮に c-Kitが発現し、しかも本来のリガンドとは全く無関係に活性化し、ERK5/AKT と言うシグナル経路で血管内皮をリプログラムするという、以前 c-Kitについて研究してきた人間にとっては驚くべき結果だった。HHTの患者さんでもKitは発現しているようで、ひょっとしたらチロシンキナーゼ阻害剤が血管拡張症を治すのに効果があるかも知れない。ただ気にかかるのは、c-Kit自体のリン酸化が調べられていない点で、フロー・ストレス刺激の場合自己リン酸化なしにシグナルが入るのかを調べていない点だ。しかし本当なら、これまで の c-Kit変異による形質異常を新たな視点で見直すことも必要になるだろう。

  1. okazaki yoshihisa より:

    SMAD4 が欠損するという特殊な条件であるとは言え、
    血管内皮にc-Kitが発現し、しかも本来のリガンドとは全く無関係に活性化し、ERK5/AKT と言うシグナル経路で血管内皮をリプログラムする!
    Imp:
    ひょっとしたらチロシンキナーゼ阻害剤が血管拡張症を治すのに効果があるかも!?
    血管内皮にc-Kitが発現するとは!

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