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2月26日:オキシトシンの力?(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2015年2月26日
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まだ現役の頃、飲み会に出かける前、一緒に参加した私の秘書から「ウコンの力」を飲みましょうと誘われ、一本飲んで出かけた。実際効果があったかどうか全く覚えてないが、こうして飲む人たちもいるのだと駅前で一緒に楽しんで飲んだのは覚えている。今日紹介するオーストラリア・シドニー大学からの論文はウコンよりはもっとアルコールに効きそうな薬の話だ。タイトルは「Oxytocin prevents ethanol actions at δ subunit-containing GABAa receptors and attenuates ethanol induced motor impairment in rats (オキシトシンはδ〜サブユニットを持つGABAa受容体に働いてエタノールによって誘導されるラットの運動障害を軽減する)」で、米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。これまでアルコールの急性影響についての論文を読んだことなどほとんどなかったが、オキシトシンがアルコール急性中毒に効果があるというタイトルにつられて、目を通した。研究としては不完全な印象だが、読むことすべて私にとっては新しい。まず中程度のアルコールによる運動障害はδGABAa受容体を介していることは初耳だ。また、惚れ薬としての効果といった社会性を高め、自閉症の治療にも使われるオキシトシンがアルコール急性中毒を抑制することが以前から報告されていたことも初耳だった。この研究では、ラットを用いてこのメカニズムが、個体レベル、分子レベルで調べられている。まず、中程度のアルコールによる運動障害だけがオキシトシンで抑制できる。他の行動には影響がない。ということは、嬉しいことに、ほろ酔い気分には影響がないことになる。飲んでもしらふのままでは意味がない。次にアフリカツメガエルの卵にGABA受容体遺伝子を導入する実験系を用いた膜電流の測定により、30nM以下のエタノールがGABAにより誘導される内向き電流の発生を4倍も促進すること、そしてオキシトシンがこの促進効果を完全に遮断することを示している。GABA受容体のサブユニットの様々な組み合わせから、δサブユニットが存在するときだけエタノールの効果が見られるため、この反応にはδサブユニットを持つGABA受容体だけがかかわるようだ。最も面白いのは、カエルの卵には通常のオキシトシン受容体が発現していないことだ。即ち、これまで知られているのとは全く異なるメカニズムで、オキシトシンがGABA受容体δサブユニットに効果を持つ。したがって、これまで知られていたオキシトシン受容体を介するGABA受容体発現調節効果に加えて、オキシトシンはGABA受容体δサブユニットに直接効果があることになる。作用機序がアルコール中毒のために開発されたRo15-4513に類似していることなどが議論されているが、今後の研究が必要だ。いずれにせよ、中程度のアルコールがGABA受容体の反応を高め、それをオキシトシンが抑えることはわかった。オキシトシンの万能性に驚く。ただ間違っても、オキシトシンを使えば飲んでも車が運転できるなどと勘違いしてはならない。ほろ酔い気分を残してくれるからオキシトシンは万能なのだ。

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