AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 10月17日 TREM2を標的にする小分子化合物によるアルツハイマー病治療の可能性(10月14日 Science Translational Medicine 掲載論文)

10月17日 TREM2を標的にする小分子化合物によるアルツハイマー病治療の可能性(10月14日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年10月17日
SNSシェア

アルツハイマー病 (AD) は患者の数から見ても、ガンに並ぶ創薬研究の重要な領域になっているが、多くの新薬が投入されるガン分野と比べて、治療薬開発という点では大きく見劣りする。それでも、アミロイドβに対する抗体薬が認可されて以来、多くの可能性が示され、このブログでも紹介してきた。

今日紹介する昨年サノフィに買収されたバイオテクノロジー企業 Vigil Neuroscience からの論文は、ミクログリアのアミロイドβ除去の主役と言える分子TREM2を活性化してAβ除去を促進する小分子化合物の開発研究で、うまくいけば経口摂取可能でAβに対する抗体薬に代わる薬剤ができる可能性を示している。タイトルは「Preclinical and first-in-human evaluation of VG-3927/SAR448851, an oral small-molecule TREM2 agonist for Alzheimer’s disease(アルツハイマー病に対して TREM2活性化小分子化合物VG-3927/SAR448851の効果を確かめる前臨床及びヒトを用いた治験)」だ。

TREM2はミクログリア細胞表面でAβを含む様々なリガンドと結合して活性化され、凝集したタンパク質の除去に関わっている。この分子がADと関わることは、遺伝子変異でTREM2の機能が低下するとADリスクが上昇することが知られている。即ち、Aβの処理が低下するとADが進むという事実は、逆にTREM2機能を上げることでAβ除去を勧めてAD進行を抑えられる可能性がある。

この目的のために、TREM2に対する抗体による刺激が試みられてきたが、うまくいっていない。この研究では、TREM2を活性化する小分子化合物を開発して、これを用いてAD治療が可能かを基礎的に研究している。この化合物VG3927については、経口摂取可能なTREM2刺激剤として注目を集めており、この可能性に期待してサノフィが Vigil を買収する。

この研究では、VG3927のTREM2刺激メカニズムを検討し、TREM2とDAP-12の細胞膜上での結合を促進し、Sykを介するシグナル経路を活性化していることを明らかにしている。このメカニズムのおかげで、AD発症を促進するTREM2変異分子も正常と同じように活性化出来ること、さらにAβや他の分子によるTREM2刺激と相乗作用を持つシグナル刺激であることを示している。

次に、iPS細胞を用いて、神経、アストロサイト、ミクログリアを誘導し、この三者を混合した培養でVG3927の効果を調べ、VG3927がミクログリア特異的に遺伝子発現を変化させ、特に炎症を抑える方向に遺伝子発現をプログラムすることを示している。同じ実験系で抗体による刺激を行うと、逆に炎症が高まる。このことから、VG3927はAβの除去を促進すると同時に炎症を鎮める理想的性質を持つことを示している。

後は生体内に投与したとき、脳に十分な量到達して、アミロイドプラークに近いミクログリアで、特に細胞遊走に関わるシグナルを誘導していることがわかる。そして、Aβのプラーク形成が促進されるモデルマウスでプラークを除去していることも確認している。

この研究では認知機能についての検討は全くないが、代わりにFDG-PETを用いて脳細胞のブドウ糖の取り込みを調べ、Aβの蓄積によって起こる脳細胞の活性低下を、VG3927が改善できることを明らかにしている。

以上の結果に基づいて、VG3927をヒトに投与する第一相の研究結果も示している。ヒト治験については既に第二相並行していると聞くので、この論文は最初の頃のさわりだけということになる。著者らが最も強調しているのは、生体内でのキネティックスで、毎日経口摂取することで、一定の血中濃度を維持できること、また脳脊髄液にVG3927が現れることから、脳への移行も高率に起こる点で、安心して使える。

効果については全く書かれていないが、第二相まで進めていること、サノフィが買収したことを考えると、ある程度の認知症進行を抑える効果があったのだと思う。一方、この研究では14日経口摂取による副作用について調べ、ほとんど大きな副作用がなかったことも強調している。

結果は以上で、効果については全くわからないが、書かれた内容からは新しいAD薬として期待できそうな気がする。ただ、臨床結果だけは蓋を開けてみないとわからない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。