むちゃくちゃ大事とは思えないが、ちょっと気になった抗老化論文を2編まとめて紹介する。詳細には入り込まずに、結果と感想のみ書いておくことにする。
最初の論文は私が留学していたドイツ・ケルン大学からの論文で、線虫を用いて低温が長生きにつながる原因を探る研究で、10月21日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Cold activates a BH2 metabolic network promoting longevity and proteostasis(低温によりBH2代謝ネットワークが活性化され寿命とタンパク質恒常性が維持される)」だ。
ほとんどの動物で低温の方が長生きできることが知られている。この研究では寿命の長短を調べやすい線虫を用いて、低温時に誘導される代謝変化で寿命に関わる代謝物を探索している。この中から酵素の働きを助ける補酵素の一つBH2が線虫で上昇していることをまず発見する。これを手がかりに、低温で寿命が延長するメカニズムを探り、最終的に以下の結論を得ている。
まず低温に反応した筋肉でCAT-4と呼ばれる GTP cyclohydrolaseがBH2 を合成する。BH2は体内に浸透して、特に腸管細胞や神経細胞でDHFR-1酵素により活性型の補酵素BH4に転換され、これが補酵素としてチロシン合成酵素を活性化して、チロシンが合成される。これが最終エフェクターとして脂肪代謝を中心に変化を誘導し、寿命を延ばす。一方、神経細胞では同じ経路で合成されたチロシンがタンパク質の合成分解のバランスを維持する恒常性維持を促進し、寿命を促進する。このシナリオは、例えばCAT4の過剰発現でBH2が造られると、寿命が延びること、あるいはBH2投与やチロシン投与でも寿命が延びることから確認している。
最後に人間の細胞にBH2やチロシンを加える実験で、タンパク質の恒常性が維持されることも示して、人間でも同じことが言えるように議論している。ただここまで言うのははばかられたのか、人間の細胞の場合酸化ストレス下では、より複雑な回路で効果が得られないことを議論している。それでもチロシンは蛋白質恒常性維持に役立つと結論している。ただ簡単にチロシンが蛋白質恒常性維持に役立つから抗老化作用があるかもしれないと結論してしまっていいのか気になる。と言うのもチロシンは、サプリとして必要以上に高齢者が摂取することは危険とされている。以上のことから、話は線虫に止めておいた方が良さそうだ。
次は米国ロサンジェルス Cedars-Sinai Medical Center からの論文で、老化に伴いPD-L2が発現することが老化細胞の除去を妨げていることを示した研究で、9月10日 Cell Metabolism にオンライン掲載された。タイトルは「Blocking PD-L2 prevents senescent cell accumulation and age-related dysfunction(PD-L2を阻害すると老化細胞の蓄積を抑え老化による機能低下を改善する)」だ。
医科研の中西さんたちがPD-1抗体で老化細胞除去が上昇することを示していたと思うが、この研究もその延長にあると思う。ただ、PD-1やPD-L1を抑制すると当然自己免疫病発症という副作用が考えられる。これに対し、この研究では細胞老化でPDーL1だけでなく、PD-L2も上昇する事、そして発現したリガンドが切り出されて流れてくるのはPD-L2だけであることを示し、標的はPD-L1であれPD-L2であれ、PD-1細胞による老化細胞除去をブロックしているのは、血中に流れるPD-L2だと結論している。
そして、ノックアウトマウスを作成し、p16を発現した老化細胞の除去がノックアウトマウスではよりスムースに起こっていること、そして特に雄マウスで、PD-L2ノックアウトでインシュリン感受性など代謝が正常化することを示している。また、血中のPD-L2を抗体でブロックすると同じ効果が得られることも示している。
結果は以上で、これにより長生きが可能になったという実験は行われていないが、PD-1による老化細胞除去というスキームの一つのバージョンと言える。ただ、PD-L2ノックアウトではP21発現細胞が残っていることや、PD-L2ノックアウトでもベースの炎症があると自己免疫が起こるので、やはり抗老化の切り札になることはないだろう。

細胞老化でPDーL1だけでなく、PD-L2も上昇する事、そして発現したリガンドが切り出されて流れてくるのはPD-L2だけである!
しかし、PD-L2ノックアウトでもベースの炎症があると自己免疫が起こる!
Imp:
残念。
冬眠療法はいけるかもしれませんね。