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11月1日 ハンチントン病の分子病理:空間トランスクリプトミックスの驚くべきパワー(10月28日 Cell オンライン掲載論文)

2026年11月1日
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この数年 Youtube 配信を含めて何度も紹介してきたが、一つの組織で何百何千もの遺伝子発現を調べることができる空間トランスクリプトミックスの進歩はすばらしい。私のガンについても是非この技術で見てみたいと思い、入院した病院と神戸大病理にお願いした。ようやく倫理委員会の許可も得られて、注文するところだ。これから支払うのだが、350種類のガン免疫パネル遺伝子を調べるだけで、陽子線治療を私費で受けるぐらいの費用がかかる。また、現在のところ検査時間などを考えると、治療方針にこれを利用することはほとんどできないと思う。しかし、研究という面では多くのデータが出るので、現役の先生たちに役立てばいいと思っている。しかし、重要な検査にこのぐらいの費用がかかるとすると、研究費が限られている場合、指をくわえて見ているだけになってしまうのではと心配になる。科学研究助成は研究全体をカバーするように設計されているが、研究の進展の結果高額の外注検査が必要になったとき、その支払いだけを審査して可能にする様な立て付けもあっていいような気がする。

脱線が長くなったが、今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、ハンチントン病の患者さんの前頭葉皮質を、1000を超す遺伝子発現を調べるMERFISH検査に加えて、蛍光抗体法及びゲノムの CAGリピートの数を調べる RNA Fish 法を組み合わせて調べることで、ハンチンティン遺伝子の CAGリピート数が拡大して、最終的に細胞死が誘導されるまでの過程を明らかにしようとした研究で、10月28日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Multimodal spatial transcriptomics redefines cortical pathology in Huntington’s disease(マルチモーダル空間トランスクリプトミックスはハンチントン病の皮質病理を再定義する)」だ。

既に述べたように、この研究では1128種類の遺伝子発現を蛍光ラベルプローブによる in situ hybridization を繰り返して調べる MERFISH でまず患者さんの大脳皮質を調べ、細胞構成を確認するとともに、コントロールと比べハンチントン病遺伝子ハンチンティン (HTT) の局在や、CAGリピートで、第5/6層の近くの神経に軸索を伸ばしている near-projecting neuron (NP) と呼ばれる興奮神経と、第6層の錐体細胞が病気の進行とともに失われることを確認している。

次に、CAGリピートが拡大した結果起こる HTT の沈殿が核内に見られる細胞を探索している。細胞内タンパク質沈殿は細胞内に強いストレスを与えて細胞死を誘導すると考えられている。皮質全体で見ると、細胞内に HTT の沈殿が認められる興奮細胞は極めて少ない。しかも、細胞死が最も誘導されている5/6層や6b層では HTT沈殿は細胞外に存在しており、細胞内に沈殿が見られる興奮細胞はほとんど無い。

では CAGリピートの拡大と HTT核内沈殿、あるいは細胞死はどのような関係にあるのか。これを調べるため、ゲノム内の CAGリピート数を蛍光強度でしらべる蛍光 in situ hybridization を開発して各細胞の CAGリピート数を算定している。実際には±55と言う大きなばらつきのある検査だが、リピート数は最大450を超すことから十分リピート拡大の状態を把握できる。

まず重要な点は、脳内の細胞で見ると、リピート数の拡大は細胞によってまちまちだが、興奮神経で拡大が見られる。即ち、リピート拡大は細胞内での個別の過程で、拡大を誘導する要因が興奮神経で多い。さらに興奮神経でも最も強い拡大が見られるのは、細胞死が最も著明な第5/6層、6b層になる。これまで考えられていたように、CAGリピートの拡大が細胞死につながる。ただ、拡大関わるとされてきた DNA修復分子の発現は、ほとんど正常で、何故これらの細胞で拡大が進むのかについては明らかに出来ていない。

さらにおもしろいのは核内の HTT沈殿との関わりだが、核内の HTT沈殿が見られる細胞では、確かに拡大が進んでいるものの250-300リピートでとどまっており、それ以上の拡大は見られない。とは言え、興奮細胞の遺伝子発現で見るとストレス応答や細胞運命決定遺伝子などの発現の大きな変化が見られる。さらに、DNA障害が高まり、染色体の凝集が高まることも明らかになった。

結果は以上で、CAGリピートが限度以上に拡大することによる細胞死と、CAGの中程度拡大による HTT遺伝子の核内沈殿、それにより転写やストレスが大きく変化した細胞が全く異なることが示されたのは意外だ。即ち、CAGリピート自体様々な作用を持ち、最終的な細胞死だけが病態を作っているのでないことが明らかになった。まさに空間トランスクリプトミックスのパワーを思い知った論文だった。

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