AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 11月6日 自閉症リスク遺伝子の機能研究(11月4日 Nature オンライン掲載論文)

11月6日 自閉症リスク遺伝子の機能研究(11月4日 Nature オンライン掲載論文)

2026年11月6日
SNSシェア

これまで自閉症スペクトラム (ASD) のリスク遺伝子については何度も紹介してきた。しかし、それぞれの遺伝子がASD発症にどう関わるのかは、症例ごとに調べるしかない。また、ASDが一つの遺伝子変異で起こるケースは少なく、通常症状への寄与の少ないコモンバリアントと、寄与の大きいレアバリアントが集まって作用するため、症例ごとにバリエーションが大きく、なかなか共通項を把握できない問題があった。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、正常の iPS細胞に由来する神経幹細胞や脳オルガノイドを用いてリスク遺伝子を欠損させることで、ASDリスク遺伝子が及ぼす共通の異常を把握しようとした研究で、11月4日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Transcriptomic convergence and the female protective effect in autism(自閉症での転写の共通性と女性の発症を抑える効果)」だ。

この研究は以下のような仮説に基づいている。遺伝子変異はまず細胞レベルで表現されるが、その表現形をASDのような脳の複雑な過程と連結させるのは簡単でない。しかし、ASDと言う最終的な表現形に共通性が見られるなら、それぞれのASD関連遺伝子の変異が細胞に及ぼす変化にも何らかの共通性が認められるはずだというアイデアだ。

これを確かめるため、比較的リスクが高いASD関連遺伝子を18種類選んで、それぞれをヒトiPS細胞から誘導した神経幹細胞でノックダウンし、24時間後細胞に起こった遺伝子発現の変化を調べている。この24時間というのがミソで、これまでは変異の長期効果を見る実験が多かったが、その結果2次、3次と様々な変化が起こってしまい、変異の直接効果を見失う危険があった。

結果は予想以上と言え、18種類のうち15種類の遺伝子ノックダウンで変化する遺伝子の多くが自閉症リスクと相関することがわかっている遺伝子である事がわかった。例えば知能発達障害だけが誘導されることが知られている遺伝子を同じ条件でノックダウンしても、自閉症リスク遺伝子は変化しない。以上の結果から、自閉症リスク遺伝子の変異は自閉症リスク遺伝子をより選択的に変化させることが明らかになった。

次にノックダウンで細胞自体の活動がどう変わったのかも調べている。50%の遺伝子ノックダウンではっきりと細胞の増殖が低下する。一方増殖が上昇する遺伝子も一つだけ存在していた。このように細胞レベルの形質変化を自閉症の脳発達治験と結びつけるのは難しい。そこで今度は脳のオルガノイドを用いてより詳しい形質変化を追いかけている。このための実験はかなり凝っており、18種類の遺伝子ノックダウンを可能にした iPS細胞を全て混合してオルガノイドを形成させることで、増殖できなくてすぐにオルガノイドが消滅することを避けている。その上で、ノックダウンがうまくいった細胞は蛍光標識でソーティングし、single cell RNA sequencing で個々のノックダウンの影響が見られるように設計している。

最初はノックダウン後十分時間を経た後の結果だが、神経幹細胞だけでなく、オルガノイド内で分化した細胞でも、ASD遺伝子ノックダウンがASD遺伝子をより選択的に変化させていることを確認している。また、細胞の形質としては興奮神経細胞が増え、未熟細胞が減少することが観察された。さらにノックダウンをオルガノイド形成後に誘導して、急性反応を調べる実験も行っている。この実験系では様々な神経細胞で同時に遺伝子ノックダウンが起こるが、特に興奮神経では神経幹細胞の急性ノックダウン実験で観察したのとほぼ同じ自閉症リスク遺伝子が影響を受けることが明らかになった。

後は変化する遺伝子の中で、転写のハブとして多くの下流遺伝子を変化させるCHD8やREST遺伝子についてより詳しい解析をして、遺伝子ノックダウンがこれらの転写遺伝子を介して、多くのリスク遺伝子を動かしている可能性を示している。CHD8はASDリスク遺伝子変異としては頻度が高く、多くの標的遺伝子のクロマチンリモデリングに関わる分子だし、RESTも多くの標的のマスター調節因子として神経分化を抑える分子で、例えばCDH8やMECP2のようなASDリスク遺伝子を調整することが知られている。このように、今回ノックダウンに選んだASDリスク遺伝子は、RESTやCDH8の発現量に強く影響することで、下流にある多くのASD遺伝子を調節する可能性が示された。

最後に、影響を受けるASD遺伝子のネットワーク解析から見つかったX染色体上のZFXについても解析を行っている。ZFXはASDで発現が低下することが報告されており、今回の遺伝子ネットワーク解析と一致する。おもしろいのはZFXが不活化されたX染色体からも転写されることで、女性では男性の倍のZFXが転写されていることになる。すなわち、ZFX転写の低下がASD発症に重要だとすると、男性の方が異常が起こりやすく、ASDが男性で多いという事実を説明できる。

以上が結果で、一つ一つの遺伝子の解析ではなく、ASDリスク遺伝子は大きなネットワークを形成しており、一つ遺伝子の発現変化が多くのASDリスク遺伝子の変化につながるというシナリオを強調する論文だと思う。即ち、多様なASDリスク遺伝子を共通のネットワークとして捉えることで、ASDと言う多様な表現系の背景の共通性が理解できるという話になる。

  1. okazaki yoshihisa より:

    今回ノックダウンに選んだASDリスク遺伝子は、RESTやCDH8の発現量に強く影響することで、下流にある多くのASD遺伝子を調節する可能性!
    Imp:
    ASDリスク遺伝子は大きなネットワークを形成している!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。