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3月3日:プレシジョンメディシンのプラットフォーム(2月26日号Cell掲載論文)

2015年3月3日
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2月26日号のThe New England Journal of MedicineにFrancis CollinsとHarold Varmus、米国癌研究の両巨頭がプレシジョンメディシンの現在と将来についてコメントを寄せている。その冒頭に、オバマ大統領が1月20日に行った一般教書演説の一節が引用されていた。「今夜、私は癌や糖尿病といった病気をできるだけ完治することを可能にするとともに、私たちすべてにもっと健康な生活を約束する個人の情報を知ることを可能にするプレシジョンメディシン計画をスタートさせる。」このコメントを読むと、オバマ大統領には医学研究の方向性についての正しい情報が伝えられていると思う。同じ日発行のCellに癌のプレシジョンメディシンのための面白いプラットフォームを紹介したハーバード大学医学部からの論文が掲載されていたので紹介する。タイトルは「Drug-induced death signaling strategy rapidly predicts cancer response to chemotherapy (薬剤により誘導される細胞死シグナルを測ることで癌の化学療法に対する感受性を迅速に診断できる)」だ。プレシジョンメディシンというと、ゲノム情報に重点が置かれているが、ゲノムがわかっても、自分のガンに合わせた薬剤の選択を簡単に行えるようにならないと、安心して治療を行うわけにはいかない。しかし、ガンといっても簡単に試験管の中で増えるわけではないので、薬剤のテストは実はそう簡単でない。この研究では、薬剤に反応してガン細胞が死ぬよりずっと前から細胞死の引き金が入っており、この引き金が入った状態を検出すれば、ガンに対する薬剤の効果を簡単に調べられることが確かめられている。方法は簡単で、ガンを様々な薬剤で16時間処理、その細胞にBH3由来のペプチド(細胞死過程を促進させる)と、ミトコンドリア膜の状態を調べる蛍光物質JC−1染色をするだけの検査だ。もし死の引き金が入っていると、速やかに蛍光が減衰する。実験では、細胞株を使って、薬剤の作用機序を問わず、ガンに効果がある薬剤はこの方法で効果を確認できることを示している。そして、実際のCML症例に対する標的薬、および卵巣癌に対するカルボプラチンの効果を判定して、臨床に利用できることを示している。科学的な知見としてはこれまでの知識を組み合わせただけで、新しいところはそれほどない論文だ。おそらく細胞死の基礎研究なら我が国も勝るとも劣らない。しかし、最初から臨床のセッティングを想定した研究であり、何よりも細胞株を樹立することなく、採取した細胞の薬剤感受性がすぐに判定できるというのは、プレシジョンメディシンのプラットフォームとしては大きな前進だと思う。このようにトランスレーションになると、急にわが国は見劣りする。いずれにせよ、これが可能になると次の課題は、ゲノム解読とともにこのような個人に合わせた薬剤感受性検査を提供する仕組みをどう構築するかだろう。このためには、この課題に対応できるような検査サービスを官民を挙げて準備することだろう。そのためには、また構想を練ることが必要だ。オバマの演説から、アメリカでは様々なシンクタンクからの情報に基づき、志の高い具体的目標が策定されていることがわかる。かたやわが国では、ゲノム研究は悲劇的状況にあるし、創薬促進・再生医学と抽象的なお題目が唱えられても、政策として出てくるのは日本版NIHが精一杯のようだ。要するに科学技術政策のシンクタンクがない。この状況が当分変わりそうもないとすると、一番いい政策は、何も考えず、アメリカの科学技術政策を、身の程に合わせてそのまま取り入れると決断し公表することかもしれない。

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