タイトルにあるトクソドンとマクラウケニアは共にビーグル号探検の際ダーウィンが化石を発見した有蹄類で、南米が北米と繋がり侵入した肉食猛獣により絶滅するまで南米で栄えていたことが知られている。この発見の経過などは彼のノートに詳しく、公開されているDarwin Onlineで (http://darwin-online.org.uk/content/frameset?pageseq=1&itemID=CUL-DAR33.249-278&viewtype=text)読むことができる。いずれも他の大陸にないユニークな形態をしていたと想像され、ダーウィンを驚かせたことだろう。これまで南米でしか化石が見つからない5目の有蹄類は、南米大陸が孤立していた時に生まれた固有種ではないかと考えられていた。ただ大陸移動過程などが明らかにされることで、アフリカの有蹄類と同一起源ではないかという説も出されていた。ただ、やはり形態学からだけで系統を判断するのは限界がある。これを解決する古代DNA解析も、この時代の化石にはまだ利用できないことがわかっていた。今日紹介する英国・ヨーク大学からの論文は、この問題を化石に残されたコラーゲンのアミノ酸配列を解読することで解決しようとした研究で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは、「Ancient proteins resolve the evolutionary history of Darwin’s South American ungulates (ダーウィンが発見した南米有蹄類の進化起源を古代蛋白から明らかにする)」だ。コラーゲンは構造上極めて安定な蛋白質で、骨に大量に含まれている。このグループは古代DNA解読を狙っていたようだが、技術の改良で解決できるレベルではないことを認識し、同じ骨に残るコラーゲンのアミノ酸配列決定に挑戦した。方法に詳しく書いてあるが、なんと90%以上のアミノ酸配列を決定できる方法の開発に成功している。もちろん、それをコードするDNAがもう存在しないため、完全に正しいかどうかについては今後も調べていく必要がある。ただ、こうして明らかになったコラーゲンの配列を元に、トクソドンとマクラウケニアの系統を決めると、馬やバクなどの奇蹄目に分類され、アフリカ有蹄類との関係は否定されたという結果だ。DNAと異なり、コラーゲンだと他の動物からの混入の心配は少ない。博物館に残る化石調査を変えることまちがいない。コラーゲンだけで系統を決めるのは問題だと批判もあるだろう。しかし、この論文は化石動物の解析を大きく前進させたことは確かだ。化石にだけ残る哺乳動物の系統樹は言うに及ばず、恐竜の骨にまで解析が進むかもしれない。この将来性が夢を生む。