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4月25日:わかっていても調べなければならないこと(4月21日号アメリカ医師会雑誌JAMA掲載論文)

2015年4月25日
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捏造や研究不正を調べてみると、大きな社会問題を引き起こした不正には、それを支持する世間の後押しがある場合があることに気づく。日本のメディアは自分がいかに騒いだかだけを基準に「世界3大捏造」などとランキングしているが、世界基準で見たとき常に問題になるのが、Andrew Wakefieldのケースだろう。Lancetに1998年発表された3種混合ワクチンと自閉症の相関を12例の症例から結論した論文だ。この結果に基づきワクチンをやめるように呼びかけまで行われ、本来なら病気にかからなかった子供が感染し、命が失われたと考えられる。その後この研究が行われた病院やWakefield自身がワクチンの公的支援中止を呼びかける団体の研究費を受けていたことが明らかになり、2010年にようやくこの論文は撤回される。研究不正問題の決着は2010年についたと言えるが、実際には現在も問題は続いている。何よりもWakefieldはテキサスに移り、ワクチンに反対する団体から支援を受けている。また自閉症の子供を持たれた北米の両親の20%が次の子供のワクチン接種を拒否する。15年を経て研究不正問題にカタがついても、社会的影響は根強く残っている。これは、ワクチンが有害だと現在も固く信じているグループがおり、社会的影響力を持っているからだ。調べたわけではないので間違っているかもしれないが、このようなグループはWakefieldと同じで少数の症例から導き出した結果を根拠とすることが多い。例えば本屋に行って平積みにされている、「癌にxxが効く」とか、果ては「ガンを治療するな」と主張して一定の売り上げを伸ばす本に近い。このような思い込みと闘うためには、科学的なデータを集めるしかないが、今日紹介するバージニアにある医療コンサルテーション会社がアメリカ医師会雑誌に発表した論文は、風評には地道に科学で対応する典型と言える研究だ。タイトルは「Autism occurrence by MMR vaccine status among US children with older siblings with and without Autism (年長の兄弟のいるアメリカ児童の3種混合ワクチン接種と自閉症の発症の関係)」だ。この研究は95,722人という多数の児童を対象にしたコホート調査で、そのうち1%が自閉症を発症している。また、2%が自閉症の兄弟をもっている。アメリカではワクチンは2度にわたって、最初は12−15ヶ月で、その後4−6歳の間に接種されるが、やはり自閉症の兄弟を持つ両親はワクチン接種を受けささない確率が対照と比べ10%近く高い。最後に自閉症との相関だが、自閉症の兄弟がいない場合はいうまでもなく、自閉症の兄弟がいる場合も、3種混合ワクチンの接種と自閉症の発症に相関は認められないというのが結論だ。Wakefield事件の後、同じ結論を示す論文は繰り返して発表されてきたようだが、根拠のない風評が続く限り科学で対応するしかない。この論文のおかげで、私たちもこの問題について聞かれたときに示せる科学的根拠が一つ増えた。

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