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5月25日:予想屋が儲かるわけ(5月18日後Nature Neuroscience掲載論文)

2015年5月25日
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以前外国人と話しているとき景気のことが話題になって、これに対応する単語が浮かんでこず苦労した。結局economic moodでその場をごまかした。しかし自分を取り巻く景色や雰囲気が経済で最も重要な言葉になる我が国は、不思議な国かもしれない。とはいえ、リスクを伴う決定の際、つい他人の意見が気になるのはどの国でも同じようで、今日紹介するバージニア工科大学からの論文はそんな時の脳の活動について調べており、5月18日号のNature Neuroscienceに掲載された。タイトルは「Social signals of safety and risk confer utility and have asymmetric effects on observer’s choices (安全性とリスクに関する他人からのシグナルは利用され、対象者の選択とは反対の効果を持つ)」だ。この研究の目的は、ギャンブルなどで選択が必要な時、他人の意見に影響されるのか、また、影響されているとしたらその背景の脳活動とは何か、を調べることだ。一見複雑な行動に見えるが、やはりギャンブルの話で、使われた課題は単純で理解しやすい。70人の被験者に様々なリスク設定で賭けをしてもらうのだが、他人の意見が全くわからない状況での選択と、選択前に他の一人の選択についてこっそり教える場合の選択について比べ、他人の選択の影響を測ると同時に、他人の選択を考慮する時に活動している脳部位の活性を調べている。論文を読んでみて、状況設定は面白いが、研究自体のレベルはそう高いとは思えない仕事だ。さて結果だが、確かに私たちは他人の意見に引きずられる。特にリスクを取ろうとしている時は他人もリスクを取ろうとしているのがわかると安心して高いリスクを選択するし、逆にリスクを取りたくないと思っている時は、他人も安全を選んでいるのを知ると同じような選択をすることになる。次に、自分だけで選択する時には活動せず、他人の意見を気にする時に活動が大きく変動する部位をMRIで調べると、前頭前皮質の下方内側の一部が興奮する。この部位はもともと、客観的な価値判断に関わることが知られており、予想通りだ。この部位と連動する部位を探すと、もう一つ前帯状皮質の後ろ側と島皮質が特定される。これまでの研究でも、この部位は他人の意見を考慮するときに興奮することがわかっており、納得だ。最後に、これらの部位が他人のどの選択に強く反応するかを調べると、実際の選択傾向とは反対で、個人的にはリスクをとりたくない時も、取りに行く時も、自分とは反対の意見に反応するようだ。要するに、影響されるのは自分の気持ちと合致した他人の行動だが、脳が反応しているのは自分とは違う選択であるということになる。もちろん一定割合で、他人の意見に従って自分の意見を変えているはずだ。もし自分の考えと違うときほど脳が反応するなら、予想屋さんが強く何度も進めれば、さらに違う意見に傾くかもしれない。もう少し違った状況設定で同じ実験をやれば株屋さんにも売れる面白い結果が出そうだ。アベノミックスで企業の利益が60兆円を越そうとしているわが国で消費がほとんど上がってこないのは、わが国では将来への不安の方が脳への刺激としては強いようだ。この脳反応を誘導している刺激の元を明らかにするのが、わが国の急務かもしれない。

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