AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 5月27日:そう簡単に皮膚ガンにはならない(5月22日号Science掲載論文)

5月27日:そう簡単に皮膚ガンにはならない(5月22日号Science掲載論文)

2015年5月27日
SNSシェア
このホームページでなんども紹介したように、ガンはゲノムに蓄積する様々な変異の結果発生する。ガンのゲノムを正常と比べられるようになった今、このことはますます明確になってきた。喫煙者に肺ガンが多いのは、喫煙がゲノム変異の蓄積を促進するためで、肺ガンのゲノムを喫煙者、非喫煙者で比べると、変異の数は喫煙者のガンの方が何倍も多い。従ってガンになる前、正常と思っている細胞にも既に多くの変異が積み重なっているだろうと予想されている。ただ、生きている人からそれを調べるためにバイオプシーをすることは簡単ではない。今日紹介する英国・サンガー研究所からの論文はこれを調べるための格好の機会を見つけ正常組織のゲノム変異を調べた研究で5月22日Scienceに掲載された。タイトルは「High burden and pervasive positive selection of somatic mutation in normal human skin(ヒトの正常皮膚細胞では既に多くの体細胞突然変異が存在し、それにより増殖性細胞の選択が蔓延している)」だ。この研究では生きたヒトのまぶたの皮膚を調べている。瞼のバイオプシーとはなんと残酷なと思われるかもしれないが、まさにこれが格好の機会だ。私もその傾向があるが、歳をとると瞼の張りがなくなり目にかぶさる眼瞼下垂が起こりやすい。この治療として瞼を切除するblepharoplasty(眼瞼形成術)が行われる。この切除した瞼の皮膚の様々な場所から細胞を取り出し、ゲノムを調べたのがこの研究だ。234箇所からバイオプシーを行い、全体で3760箇所の体細胞突然変異を発見している。詳しくは述べないが、こうして特定された多くの突然変異の原因が紫外線であること、加えて皮膚の修復による活発な転写を原因になっていることが、突然変異を解析することでわかる。しかし何よりも驚くのは、調べた4人の皮膚で、発ガンに関わるとして知られている6種類の突然変異が高い頻度で見られている。原理的には紫外線による突然変異は全ての遺伝子にランダムに起こるはずで、特定の遺伝子に起こった変異が高い頻度で見られるというの結果は正常皮膚で突然変異を起こした細胞が既に異常増殖を始めていることを示している。中でもNOTCHと呼ばれる遺伝子の変異は全ての人で観察されている。また、見つかった変異を実際のガンと比べると、これまでガンの原因として考えられてきた突然変異がほとんど揃っている。ただ、PITCと呼ばれる遺伝子のようにガンでだけ変異が見つかる遺伝子もあるので、発ガン過程を完全に理解するためには重要な情報になる。最後に今回正常組織に特定できた突然変異の頻度から、眼瞼という小さな領域で起こっているイベントを次のように描いている。まず順番はわからないが、FGF3,p53,ARID1Aに変異が起こった細胞が他の細胞より少し早い増殖を繰り返し、5ミリ平米ぐらいの大きさになった時点で、Notchを含む次の変異の蓄積が始まり、クローンの多様性が生まれるというシナリオだ。要するに、正常時から細胞の一種の異常増殖が進んでいるという恐ろしい結果だ。しかしそれでもそう簡単にガンが起こっていないことが面白い。これほどの変異が蓄積しても、さらなる決定打がガンになるために必要なことがわかる。これが何か?PTCH遺伝子なのか?その先にガンの予防や早期発見が期待できる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


reCaptcha の認証期間が終了しました。ページを再読み込みしてください。