AASJホームページ > 新着情報 > 論文ウォッチ > 6月2日:新しいプロビオティックス:バクテリアを食べてガンを見つける(5月28日号Science Translational Medicine掲載論文)

6月2日:新しいプロビオティックス:バクテリアを食べてガンを見つける(5月28日号Science Translational Medicine掲載論文)

2015年6月2日
SNSシェア
プロビオティックスというと、私たちの体を助けてくれる微生物のことだが、一般的には発酵食品やヨーグルトなどに含まれる微生物を思い浮かべる。例えば「プロビオで腸内細菌のバランスを整え健康な生活を送ろう」といった具合だ。事実トクホや機能性食品の認可のハードルを低くして健康産業を育てるのがアベノミクスの一つの柱のようだ。税金が必要な健康保険や介護保険の費用を、健康寿命を伸ばして減らすというアイデアは当然だが、今の政府のやり方を見ていると、トクホや機能性食品が乱立し、健康食品の売り上げだけが伸びただけで、肝心の健康寿命が全く伸びないという事態になる心配がある。トクホや機能性食品が本当に健康寿命を伸ばし、医療費削減につながるのか検証することが先決だと思う。ぼやきはこのぐらいにして、プロビオティックスに戻ると、世の中にはずっと先を考えて微生物を使おうとしている人たちがいる。今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文はなんと微生物をガン転移の早期発見に使う研究で5月28日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Programmable probiotics for detection of cancer in urine (ガン患者さんの尿でガンの早期発見のためのプログラムを組み込んだプロビオティックス)」だ。普通体内の臓器は無菌的だと思っているが、様々なルートで細菌は各臓器に広がる力を持っている。この研究は経口投与後肝臓に侵入する細菌を用いて、肝臓内に存在するガン細胞を検出するのが目的だ。まず経口摂取して肝臓に広がっても無毒な細菌を確立し、それが確かに肝臓に到達し増殖することを確認している。次に、この細菌にガンが分泌する器質を切断する酵素を組み込む。この酵素により、ガンが分泌する特定の分子を切断し、その断片の中で尿中に出てきた成分を標識としてガンの存在を検出するというアイデアだ。この酵素を一定量発現したときだけ生きるように細工を加えた細菌を作成し、これを肝臓にガン転移が起こったマウスに摂取させ、まず組織学的に調べている。詳しいメカニズムはまだわからないと思うが、この細菌の増殖は転移巣でより亢進しており、うってつけの運び屋になっている。そして最後に、基質を発現するガン転移を起こしたマウスと、正常マウスの尿に分泌される標識分子を調べ、期待通り転移巣がある場合にのみ尿に特定のマーカーが検出されることを示している。もちろんこの論文はまだ微生物を転移ガンの早期発見に使えるというアイデアが実現可能であることを示したモデル実験でしかない。また、早期発見だけで言えば他の方法が結局優れているという結果に終わることは十分あり得る。しかし、健康診断の2−3日前にこの微生物の入ったヨーグルトを食べておいて、検診の時に尿だけでガンが診断できるなら、十分他の方法と競合できるだろう。何よりもこの先に、転移巣選択的な治療につながる可能性もある。このようにプロビオティックスが本当に健康な人を増やすことを示すためには、優れたアイデアと、長期的視野、そして科学的検証が必要だ。繰り返すが、我が国がトクホが栄えて、病気の高齢者も増える国になることだけは避けなければならない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*


The reCAPTCHA verification period has expired. Please reload the page.