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6月17日:Nanopore社 MinIOnシークエンサー(Nature Methodオンライン版掲載論文)

2015年6月17日
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昨年12月11日、これまで私たちがDNAシークエンサーに対して抱いていた常識を覆す使い捨ての手のひらに乗るシークエンサーMinIOnがサンプル出荷され始めたことを紹介した(http://aasj.jp/news/watch/2561)。その時、この機械は小さく安いだけでなく、一分子レベルで配列を決めること、また10Kbを越す長さの配列を読めるという大きな長所がある一方、解読の精度が80−85%しかないという大きな問題があるため短い配列を正確に決定できる現在のシークエンサーと組み合わせることでその力をフルに生かすことができると書いた。今日紹介するカナダトロント大学からの論文は、なんとMinIOnだけで完全な大腸菌ゲノム配列決定するために必要なアプリケーションなどを開発したという報告で、Nature Methodオンライン版に掲載されている。タイトルは「A complete bacterial genome assembled de novo using only nanopore sequencing data (ナノポアのシークエンスデータだけを使って新たに決めた完全な細菌ゲノム)」だ。実際MinIOnの精度が85%だから使えないというのは、1回だけしか配列を読めないという場合の話で、シャノンの情報理論によれば正しい情報が少しでも含まれておれば、必ず正確な全情報に到達する手段はある。一番わかりやすいのが、何度も同じところを読んでコンセンサスを取ることだが、それ以外にも配列の傾向をつかんだり、様々な方法で精度を上げることができる。すなわち、何度も読むというのはコストがかかるので、その間をつなぐ方法の開発で読まなければならない回数を減らそうとする試みだ。この研究では1本のDNA鎖を両側から計算上29回繰り返して読むことと対応するデータから、完全なゲノム情報を引き出すための方法を示したものだ。既存のアプリケーションや新しく作ったアプリケーションを用いて読み間違いを排除しているが、この研究ではMinIOnの性能に合わせた新しい方法の開発も行われ、それが売りになっている。MinIOnでは一本のDNAをセンサーであるチャンネルを通す時検出される電流の違いで塩基の種類を特定するのだが、この時の実際の電流の記録をすべてモニターして、シグナルが低すぎてエラーが出る確率をフィードバックできるアプリケーションを開発した。さらに、ナノポアの方法では同じ塩基が4回以上続くとその塩基がスキップされる確率が上がるという傾向も計算に入れるようにして、情報理論的に精度を高めている。この結果、MinIOnだけを使って、これまでの方法で決定されたのと同じ精度で大腸菌の全ゲノムの配列決定が可能であることを示している。それでも、2箇所これまでの配列と一致しないところがあるが、これは繰り返し配列を持つトランスポゾンの配列に由来しており、もともと短い配列を集めるこれまでの方法では検出しにくい領域だと結論している。実際短い配列を集める従来の方法では、バクテリアにある7Kbもの長い反復配列を正確に解読することは至難の技だ。とはいえこれであらゆる配列決定に使えるというわけではない。まだまだ欠点はあるだろう。しかし、すべてが情報理論の問題に還元できるなら、今のハードだけでも様々な可能性が開けそうだ。事実、自分の家でも配列決定ができるようになるということ、1分子シークエンシングにより、そこに存在するDNAをそのまま調べられるという大きなイノベーションは、これまでの方法では達成できない。もちろんハードも進歩するだろう。ゲノムというとすでに大きな枠組みは決定したと考えている人が多いようだが、21世紀ゲノム文明に向けてますます歩みが加速しているというのが実感だ。我が国の科学技術行政に携わる人たちは,この息吹を自分は感じることができているか是非問い直してほしいと思う。

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