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6月27日:ニキビの研究(6月24日号Science Translational Medicine掲載論文)

2015年6月27日
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医師免許は持っていても、私にとって全く利用価値のないものになって久しい。言って見れば、運転免許を持っていても、視力が障害されれば意味がなくなるのと同じだ。とはいえ、仕事がら様々な病気について今も学び、また人に説明したりしている。ところが、当たり前の病気については以外と知らないし、論文を読む機会もない。例えばメラノーマについて知っていても、ホクロの本当の原因について説明せよと言われると困る。今日紹介するUCLAからの論文が扱っているニキビもそうだ。毛根に付属する皮脂腺がニキビ菌(アクネ菌)による炎症を起こしているといえるのが関の山だ。6月24日号に掲載された論文、「Vitamin B12 modulates the transcriptome of the skin microbiota in acne pathogensis(ビタミンB12は皮膚細菌叢の遺伝子発現を変化させニキビ発症に関わる)」は、皮膚常在菌として健常人に存在するアクネ菌がどうして元気な若者の皮脂腺の炎症を起こすのかという最も素朴な疑問から始めている。これに答えるために、ニキビを発症した人と、発症していない人の鼻部毛根に存在する細菌が発現するRNA量を調べ、ニキビ発症の人に特徴的な違いがないか調べている。調べたニキビ患者4例全てで、アクネ菌のビタミンB12産生につながる代謝経路に関わる遺伝子の発現が低下していることを発見した。私は全く知らなかったが、ビタミンB12を服用すると人によってはニキビになることが知られていたようで、この結果は患者のビタミンB12レベルとニキビのビタミンB12レベルに逆相関がある可能性を示している。そこで、健常人にB12を服用させアクネ菌の遺伝子発現を調べると、2週間ほどで予想通りB12合成経路の発現が低下してくる。ただ、この低下が見られるのは10%程度で、このアクネ菌の変化を誘導するホスト側の要因はB12以外にも存在するため、一部の人だけでニキビが発症するという結論だ。ただ、アクネ菌のB12産生の低下がニキビにつながるとは考えにくい。この研究では、ホスト側からB12が供給されると、アクネ菌でグルタミンからB12合成経路に関わる遺伝子発現を調節するオペロンに作用し、B12産生を抑制する一方、その時同じグルタミンから産生される、ニキビの炎症原因になることが知られているポルフィリンの産生が上昇することを突き止めた。繰り返すと、ホストのB12がアクネ菌に作用すると、アクネ菌は自分のB12産生を抑制し、その代わりにポルフィリンを多く分泌することが、B12服用によりニキビができる原因になるという結論だ。これまでニキビというと、抗菌療法が中心だったと思うが、この話が本当なら、自分の体にいいと思っていることが、もう一つの自分細菌叢にひっくり返される例がまた増えたことになる。しかし、当たり前のニキビの話をうまくScience Translational Medicineが掲載する気にさせる論文に仕上げたと感心した。

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