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7月12日:脳はCPUか?跳んでる研究(Scientific Reports掲載論文)

2015年7月12日
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brain-machineインターフェース(BMI)についての研究が盛んだ。もともとは脳波を利用して機械を意のままに動かすための様々な条件を調べる研究で、わが国も重要分野として助成が行われている。実際の脳活動と、20世紀の情報科学の成果であるコンピュータを結合させて、メカニズムのわかっている機械部分との相互作用を通して実際の脳の仕組みを探るとともに、新しい技術の開発を目指す挑戦的分野だ。SFの世界にちかく、跳んでる分野に見えるが、論文や成果報告を見ていると、ほとんどは堅実で、荒唐無稽という印象はない。ところが中には確かににわかには信じ難い研究に挑戦している論文もある。例えばアメリカにいる人間が考えていることをインドにいる人間に脳波を通して伝えるというまさにSFと思える論文も査読を受けて掲載されている。しかし今日紹介するデューク大学からの論文はさらに上を行く。完全に理解できなかったが、跳んではいても何か大きなポテンシャルを感じた。タイトルは「Building an organic computing device with multiple interconnected brains(相互に複数の脳を結合させて生物コンピューターデバイスを作る)」で、7月9日発行のScientific Reportsに掲載された。研究はラットの脳を計算機のプロセッサーとして使うための条件を探っている。研究では、ラットの大脳皮質体性感覚野にインプットとアウトプットの複数電極をもつクラスター電極を挿入し、これを通してラットの脳を結合させるとともに、刺激を入力し、反応を記録する。こうして結合させた脳CPUともいうべきプロセッサーは、まず同調しないと使い物にならない。そのため、4匹のラットの皮質に一定のパルス刺激を与え、その後脳を互いに同調させた時だけご褒美を与えられるようにして同調するよう訓練する。とはいえ相手は生き物で、うまく同調する確率は訓練してもだいたい6割だ。重要なことは麻酔をかけた脳にはこのような活性はないことだ。このシステムに、1)刺激のパターンに合わせて同調できるか、2)コード化した情報を認識して同じようにアウトプットできるかどうか、3)情報をネットの中で維持し、出力できるか、最後に4)並列処理とシーケンシャル処理を組み合わせてインプットを計算して期待値に近い出力ができるか調べ、全て可能であると結論している。実際には、簡単なアルゴリズムで天気予報すら可能であることまで示している。ただ、はっきり言って、この結果から脳がCPUとして働くか結論するのは難しいと思う。インプットとアウトプットの関係をどう解釈するかはまだまだ恣意的な印象が強い。あとはご褒美のないところでは全く機能しないことなど、ラットが覚醒していることがこの結果に必要だということを、計算できていることの証拠としている。したがって、多くの研究者には荒唐無稽と映るだろう。ただ、私自身はポテンシャルを感じる。それは発想が跳んでいるからというわけではなく、システムとしての脳を理解する重要な方法になるポテンシャルを感じるからだ。コンピュータは研ぎ澄まされた再現性の高い動作を行うCPUやメモリーを基礎に作られている。一方私たちの脳細胞は、ノイズは高いし、神経興奮活動は細胞の維持に必要な活動と比べるとほんの一部の機能で、無駄が多い。逆に、このような制約の中でシステムができている点がコンピュータに今まで真似のできなかった最大の特徴かもしれない。さらに、PETやMRIから、活動している場所に血液が動員されていることもわかるが、どうしてこんなことが起こるかもわかっていないし、コンピュータに真似させることもまだできていない。私から見て、脳とコンピュータはシステム設計の方向性が全く違うように見える。その意味で、脳はCPUかというこの研究の問いは貴重だと思う。他にも、動物を用いて主観について研究する糸口になるかもしれないと感じた。こんな荒唐無稽なことをやっていく研究者がいないと科学は進まないと思う。

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