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9月2日読売新聞記事:造血する新細胞、マウスで発見

2013年9月2日
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実際の記事は以下のURLを参照して下さい。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130830-OYT1T00210.htm

私にとって元々この分野は良く理解できる。専門と言って良い。また、中内さんは個人的にもよく知っている。骨髄造血幹細胞を単一細胞レベルで調べる研究の世界的第一人者だ。さて、今回の仕事は、放射線照射したマウスの造血系を再構成する能力のある血液幹細胞にはどんな種類があるのかを新しい技術を使って丹念に調べたものだ。しかし専門家の私は、この問題はずっと昔に解決していると思っていた。ただ論文を読んでみると、わかったと納得しないでやってみる事の重要性を強く感じた。実際詳しくは述べないが、これまでの考え方を大きく変える結果だ。これが最終版なら、日本の中内研から出たことを誇りに思う。勿論これから、正常の造血でも同じことが起こっているのか調べる必要がある。あるとわかると、方法はある。結果を知るのはそう遠い話でないだろう。期待しよう。
 さて読売の記事だが、短い紹介ではあるが図入りで力が入っている記事だ。ただ、中内さんの仕事が示す情報を正しく伝えているとは言えない。この仕事の重要なメッセージ、即ち長期にわたってリンパ球以外の血液を作り続ける幹細胞がある事を示した点については正しく伝えている。しかし、これがこれまでの説を大きく書き換える成果である事が全く伝えられていない。それどころか、わざわざ加えてある図では、これまでの説に単純に新しい細胞が付け加わった様な紹介になっている。よく図を見てみると説明書きが挿入されており、旧来の説にただ新しい細胞が付け加わっただけではない事を記者も理解している事はわかる。しかし専門家から見ると、誤解を招く図になってしまっていると判断せざるを得ない。オリジナルの論文にも、新しい説を解説した図がある。なぜこれを正確に参照させた図を作ろうとしなかったのか、極めて残念だ。これまでの説を理解した上で、中内さんの仕事を理解する事は専門家でないと難しいだろう。また、中内さんも正確に伝えなかったのかもしれない。しかし、「読者も結局難しい事はわからないし、正確と言われてもきりがない」と言う考えが記者の頭をよぎっていないだろうか。正確に伝える記事をどう書くのか、これは新聞記者の永遠のテーマのはずだ。もっと精進してほしい。

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