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7月26日:慢性リンパ性白血病の徹底的研究(Natureオンライン版掲載論文)

2015年7月26日
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わが国では比較的患者数が少ないが、慢性リンパ性白血病(CLL)は人口構成が高齢化すると共に欧米諸国では増化傾向にある。問題は高齢の患者さんに使える治療法はどうしても限られる。このため、分子標的薬や免疫療法など、患者さんが十分耐えられる治療法の開発が待たれおり、公的研究助成も充実しているようだ。今日紹介するスペインの様々な機関が共同して発表した論文はCLLを徹底的に研究するという意気込みが表に出た研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Non-coding recurrent mutations in chronic lymphocytic leukemia(慢性リンパ性白血病に一定の頻度で見られるノンコーディング領域の突然変異)」だ。最初この論文を読み始めた時は、普通のガンのゲノム研究かなという印象だった。しかし読み進むと、あらゆる先進技術を駆使したガンの基礎研究であることがわかる。1年前まではある程度の患者数のエクソームを調べればトップジャーナルに掲載されていたが、この論文は、150例は全ゲノムを調べ、440例ではエクソームを調べるという膨大なガンゲノム研究になっている。もちろん数多く調べたからといってそう新しい結果が出るわけではない。発がんに関わると考えられるドライバー遺伝子のほとんどがこれまで指摘されたものだ。中でもNOTCH分子の変異が一番目立つ。少し意外だったのは、もともと突然変異が起こりやすくできているB細胞白血病のエクソームの変異が平均29/患者さんとそう多くないことだ。この論文でも突然変異に関わるAIDが発現していても、その効果は免疫グロブリンと一部の限られた遺伝子に集中しているようだ。このようなエクソームレベルの変異と予後も調べており、ドライバー遺伝子の変異が多いほど生存率が急速に低下することも10年以上の追跡結果で示している。論文では半分のケースで標的薬を使える可能性があると結論しているが、印象としてはゲノムがわかればわかるほどガンは多様化しており、治療が簡単ではないことも思い知る。ただこの論文のハイライトはタイトルにもある全ゲノムを調べることで明らかになってきた、エクソン以外の場所に見られた変異だろう。中でも2種類の変異が詳しく調べられている。一つはNOTCH遺伝子の変異で、スプライシングの異常を誘導する3’領域の突然変異の頻度が高い。これまでスプライシングに関わる分子の変異が白血病を誘導することが知られていたが(http://aasj.jp/news/watch/3416)、スプライシングを受ける側の遺伝子の頻度の高い突然変異が示されたのはこの論文が初めてではないだろうか。もう一つの変異はPAX5と呼ばれるB細胞分化に必須の分子のエンハンサーに見られる突然変異だ。話としてはこれだけになるが、驚くのは研究の徹底性だ。例えば、スプライシング異常により、分解を受けにくい短いNOTCH分子が作られていることを示すのは当然としても、PAX5エンハンサーに関しては、染色体のトポロジーを調べる方法でエンハンサーと相互作用をする遺伝子領域を特定し、クロマチン沈降法でその領域のヒストン修飾に関するマップを作っている。その上で、細胞株のエンハンサー部位をクリスパーを用いたゲノム編集法で操作し、この突然変異によりPAX5の発現が低下することまで示している。臨床経過との対応もきちっと調べており、NOTCHのノンコーディング領域の変異があると、コーディング領域の変異よりはるかに予後が悪いことも調べている。今あるあらゆる分子生物学的テクノロジーを集中させ、臨床データと対応させる包括的な研究が行われている。明確には述べられていないが、さらに集められた患者さんのデータは技術の進歩とともに進化できるようになっているのだろう。実際これだけの研究は臨床と基礎がしっかりタッグを組んでしか行えない。もちろん、国を挙げて協力関係があるからできるのだろうが、わが国で同じような協力関係が本当に可能で、ゲノム、エピゲノム、クロマチントポロジーまで最先端の解析を集中できるのだろうかと考えると心配になる。わが国でも新しく次世代ガンの研究助成が決まったという。本当にお金を配るだけでない、研究協力のオールジャパン体制がとれているのかぜひ見守っていきたい。
  1. Okazaki Yoshihisa より:

    論文では半分のケースで標的薬を使える可能性があると結論しているが、

    印象としてはゲノムがわかればわかるほどガンは多様化しており、治療が簡単ではないことも思い知る。

    →様々分子を操り、生き残り策を模索する。癌も思考をしているみたいです。

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