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8月9日:ムール貝を手本に接着剤を開発する(8月7日号Science掲載論文)

2015年8月9日
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プロでなくとも、ホームセンターに行けば、接着させたい対象に合わせた様々な接着剤が手に入る。しかしすこし考えてみると、これほど多くの化合物が開発され、ほとんどの物質同士を接着させることが可能になっているのは驚異的なことだ。この開発がどのように進むかなど考えたことがなかったが、今日紹介するカリフォルニア大学サンタバーバラ校からの論文を読んで、まず接着させるのが難しい対象を選んで、接着を阻む問題を分析し、これを化学の力を使って解決することで開発が進むことが理解できた。論文は8月7日号のScienceに掲載され、タイトルは「Adaptive synergy between catechol and lysine promotes wet adhesion by surface salt displacement (カテコールとリジンの適応的協調により表面の塩を排除することで濡れた面の接着を促進する)」だ。この研究で選ばれた課題は、海水中で利用できる接着剤だ。確かに接着させるとき、表面をよく乾かしてそこに接着剤を塗布するのが普通だ。組織を接着させる医療用接着剤の場合でも、決して血の海の中で接着させるというものではない。水があると、接着分子の表面の極性が覆われてしまい、分子間力が働けなくなるのが理由だ。このグループはムール貝が足を伸ばして岩場に接着する時使っている分子に注目している。正直なところ、私はこれは吸盤と同じ原理かと思っていた。実際には15種類のタンパク分子が関わる複雑な過程で、そのうち最初に岩の表面に分泌されるmfp3,mfp5は表面の状態を接着に適したものに変える働きがあることがわかっていた。面白いことにこのタンパクにはDopa分子とリジンが多量に含まれている。ここからは化学者の頭が必要で私にはついていけないが、著者らはこの二つの分子セットが鉱物表面の水と塩を処理していると考えた。特に、CTCと呼ばれる鉄に親和性を持って溜め込む分子がやはりカテコールとリジンが近接して構造化されている分子であることに気づき、水中接着にこの分子を使ってみると、水和した塩が排除され接着が高まることがわかった。そこで、カテコールとリジンが結合した分子が3個繋がった人工化合物を合成しCTCより2倍接着力の高い、pH3-7.5の水中で働く接着剤が開発できた。それぞれの部分を変化させ、接着原理を調べた結果、この分子からできるカテコールアルキラミンが鉱物表面を接着に適した状態にして、そこに2本の手をもつカテコールが入って水素結合することで強い接着が生まれることが明らかになった。この結果を元に、今後カテコールをカチオン官能基と合わせることで塩を除去するという原理にかなった化合物をさらに探すことで、水中でも接着が可能な新しい接着剤の開発が期待できると結論している。実を言うと化学の論文なので、わからないところはすっ飛ばしているが、様々な現象に学んで開発に役立てるというストーリーは面白い。何よりも、ムール貝の足がそんな複雑な接着方法を使っていることを知って、ただの吸引機関と思っていた自分の無知を悟った。

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