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8月10日:1型糖尿病発症に関わる意外な経路(8月18日号Immunity掲載論文)

2015年8月10日
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8月5日、1型糖尿病根治を実現するための募金を呼びかける日本IDMMネットワークの井上さんからのメッセージを掲載したところ(http://aasj.jp/news/navigator/navi-info/3870)、なんと150人近い方々から「イイネ」という賛同の意が寄せられた。この場を借りて改めてお礼を述べると共に、1型糖尿病研究は徐々に臨界点まで近づいており、根治は必ず実現することをもう一度強調したい。根治と共に、発病前の早期発見と予防という面でもこの分野の研究は進んでいる。今日紹介するフランス国立医学衛生研究所からの論文は、1型糖尿病に意外な役者が関わっていることを示した研究で8月18日号のImmunityに掲載された。タイトルは「Pancreatic β cells limit autoimmune diabetes via an immuneoregulatory antimicrobial peptide expressed under the influence of gut microbiota (膵臓のβ細胞は腸内細菌叢の刺激で抗菌ペプチドを分泌し自己免疫性糖尿病を抑制する)」だ。タイトルにある抗菌ペプチドとは、植物から動物まであらゆる生物に保存されている分子で、抗菌作用を持つペプチドだ。ヒトやマウスのような哺乳類では、腸管上皮や白血球により産生され、腸内細菌叢の活動をおさえる役目がある。ただ、大量に分泌されると自然免疫を刺激し、様々な自己免疫疾患の原因になることが示唆されていた。一方カテリシジンと呼ばれる抗菌ペプチドの血中濃度が、1型糖尿病患者さんで低いということも知られており、逆に免疫反応をおさえる役目があるのではと疑われていた。この研究は、1型糖尿病モデルマウスを用いてこの可能性を追求して、1)マウスやヒトでは腸管上皮や白血球だけでなく、膵臓β細胞もカテリシジンを分泌しており、糖尿病のメスマウスでその量が低下している、2)カテリシジンを腹腔内投与すると糖尿病の発症が抑えられる、3)この効果はカテリシジンが膵臓のマクロファージを、PI3Kシグナル経路を介して免疫抑制型に変化させ、調節性T細胞を誘導することで自己免疫を抑えている、4)膵臓のカテリシジン分泌は腸内細菌叢が分泌する探査脂肪酸により誘導される、5)腸内細菌叢を抗生物質で壊すと、糖尿病の発症が早まる、などの結果を示している。少し出来過ぎに思える話だが、それぞれの可能性は実際に糖尿病発症の抑制として示されているので、十分説得力がある。もしこれが全て正しければ、IDMMネットワークでも患者さんの発症前の食生活や、抗生剤投与状況など、詳しい聞き取り調査を行って、疫学的原因がないか調べる可能性もある。もちろん、カテリシジン注射や、腸内細菌叢移植などで病気を予防する可能性も出てくる。いずれにせよ、治療だけでなく予防も含め、もう一度1型糖尿病を違った視点から眺める重要性を示唆する、面白い研究だと思った。
  1. 瑠璃の島 より:

    1日でも早く根治の日が来て、血糖値を気にする必要のない生活に戻りたいと思いますが、本当にそんな日が来るのか信じられないという気持ちも強いです。

  2. 瑠璃の島 より:

    本当に1型糖尿病が根治する日が来るのでしょうか?
    なんだか夢のようです。

    1. nishikawa より:

      来ると思います。私は今から、格差なく実現するにはどうすればいいかを考え始めています。

  3. 瑠璃の島 より:

    1型は本人は勿論の事、家族も大きな負担を強いられます。
    根治できるなら借金をしてでもと思いますが、あまりに高額だと、悔しいですが手がでません。
    それでは治らないのと同じなので、誰でも平等に治療が受けられたらと思います。

    1. nishikawa より:

      新しい医療が格差を生まないようにするにはどうすればいいのか、患者さんたちと考えていきたいと思います。

  4. hayato より:

    1型と診断された時、一生治らないと言われました。
    β細胞が失われてしまっているのに、根治なんてありえるんですか?
    僕の貧相な脳みそでは創造つきません。
    確実に根治する時は来るなんて期待して、失望するのは嫌です。

    1. nishikawa より:

      私の大学院生にもIDDMでβ細胞が完全に消失した人もいます。この場合は、膵島移植だけが期待できます。今この分野は進展しており、ぬか喜びでない有望な話が出れば紹介します。

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