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8月11日:ストレスと自己管理(8月5日号Neuron掲載論文)

2015年8月11日
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最近旧知の眼科の教授に久しぶりに出会って食事をした時、15キロの減量に成功したと聞いて驚いた。私自身は少し太り気味だが、アルコールが進むとどうしても食べすぎる。自己管理ができて、しっかりとダイエットしている人を見ると頭がさがる。おそらく私自身は、食欲を前にして自己制御が難しい脳構造を持っているのだろう。さらに、現役を退いてからはストレスも減って、太る原因になっているのだろうと考えていると、ストレスがあると自己管理ができなくなり、太る心配があるという逆の可能性を示す研究に出会った。チューリッヒ大学からの論文で8月5日号のNeuronに掲載された。タイトルは「Acute stress impairs self-control in goal-directed choice by altering multiple functional connection with the brain’s decision circuits (急性ストレスは脳内の意思決定回路の複数の結合性を変化させ、目標のための自己管理を損なう)」だ。タイトルにあるように、この研究の目標はストレスが自己管理能に及ぼす影響を調べることだ。そのために、まず健康のために食事を管理してダイエットをしている人を50人ほど集め、身体的・精神的ストレスを与えた後、食べ物を提示して、味を選ぶか、健康を選ぶかという選択をさせる。同時に脳の機能的MRIを撮影して、活動と各部の結合性を調べている。まずストレスを与える方法だが、ビデオ監視下に氷水に手を3分間浸ける。もちろん拷問ではないので途中で耐えられずに手を上げざるを得ない。その間はビデオをじっと見つめ、手が元に戻れば手を浸けるように頼んで3分のセッションを終える。これがストレスになるかと思うが、実際に血中コルチゾルが上がるし、自覚的評価をさせてもストレス・スコアが高まっている。この状況で、味か健康かを選ばせると、味を選ぶ場合が増える。すなわち、ストレスがあると自己管理がおろそかになる。いわゆる「やけ食い」の反映か?この時fMRIで脳活動を調べると、食べ物の評価、すなわち味か健康かを判断する脳部位はストレスによってほとんど影響を受けない。すなわち正常な判断ができる。しかし、ストレスがあると味への欲望に関わる側坐核と扁桃体がより強く興奮している。さらに、前頭前皮質のなかでも意思決定に関わる部位と欲望に関わる側坐核、扁桃体との結合がストレスで亢進していることを見出している。研究では、味に負けずに健康な食べ物を選ぶというプロセスに関わる領域を特定して、この領域と前頭前皮質との結合がストレスで低下することも見出している。結論としては、ストレスは自制心に関わる領域と前頭前皮質のつながりを弱め、欲望と前頭前皮質のつながりを高めるため、自制心が欲望に負けるということになる。読んでいると、脳イメージはどうしても前もって考えたモデルを元に解釈されるため、どうしても結論先にありきの研究に思える。しかし、一般的にも「やけの大食い」ということを考えると、まあ納得の結論だろう。この論文を紹介する気になったもう一つの理由は、この研究グループが経済学部に所属しており、経済学部に社会神経システム研究部門が設けられ、こんな脳研究を行っていることだ。今わが国では大学の文系を再編するという文科省の決定を巡って議論が高まっている。しかし、私たちの文系という概念の中に、経済が人間の心に強く依存しているなら、当然脳研究を行うべきだとするチューリッヒ大学ほどの自由な発想があるかどうか反省すべきではないだろうか。将来に展望を持たずに、現状を変えようとする再編議論には一利もない。

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