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8月16日:再生のための肝臓の幹細胞(8月13日号Cell掲載論文)

2015年8月16日
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肝臓の幹細胞についての研究がホットなようだ。つい1週間前8月8日、定常状態の肝臓細胞の再生は中心静脈の周りに存在するAxin2分子を発現している細胞が担っていることを示す論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/3894)。今日紹介するカリフォルニア州立大学サンディエゴ校からの論文は、肝臓が様々な理由で障害された時の肝臓再生に関わる幹細胞についての研究で8月13日号のCellに掲載された。タイトルは「Hybrid periportal hepatocytes regenerate the injured liver without giving rise to cancer (門脈周囲のハイブリッド幹細胞は障害された肝臓をガンを誘発することなく再生する)」だ。この論文を読むと、頭のいい実力派の米国研究者(この場合Karin)が、これまでの研究をうまく拝借して、面白いストーリーを仕上げる論文の典型であるのがわかる。肝臓は障害を受けたとき強い再生能力をもっている。だからこそ生体肝移植のドナーは大きい方肝臓を提供しても、残りを再生させて正常な肝機能を回復できる。前回紹介したAxin2幹細胞は定常状態の自己再生に関わり、障害を受けた時の再生には関与しない。ではどの細胞が関与するのか、これまで多くの研究が行われてきた。我が国からも高いレベルの研究が生まれている。Karinがこの分野を研究しているとは思わなかったが、この仕事はまず以前紹介した京大の川口さんたちと同じSox9を使ってこの幹細胞を標識できることを示している。ただ、この系が標識の特異性に問題があることをよく考慮した上で、最終的にSox9の発現が低い肝細胞が再生に関わる可能性に到達した。実際、同じ標識による追跡実験だけではそれほど説得力はない。このことは百も承知で、肝臓細胞にだけ感染するアデノウイルスやアデノ随伴ウイルスを使った2重標識でこれまでとは違う細胞であることを示し、最後は高濃度のタモキシフェン投与だけでラベルできる細胞が多くあることを利用して、細胞を精製し、これが肝細胞と胆管細胞の両方の性質を持った新しいポピュレーションであることを示している。確かに肝臓幹細胞が両方の性格を持つことは示唆されていたが、細胞を培養せずに直接精製して遺伝子発現を調べることで説得力が上がっている。そして、この細胞を数万個脾臓に移植するだけで、細胞移植がないとほとんどが死ぬ障害モデルで、移植によって100%生存できることを示している。その上で、この細胞による再生は肝臓の組織構築をそのまま再構築することまで示している。たしかにここまでくると説得力が急速に上がる。そして最後に、この細胞からはガンにならないことを3つのモデル実験系を用いて示して、うまく論文の価値を高めている。確かに、この論文が正しければ、肝臓がんを考える時、今までのように障害、再生のサイクルモデルは間違っていることになる。この魅力的声明によって、ハイブリッド肝細胞という新しい名前とともに、この分野でこの考に沿った検証を進める研究者が増えるだろう。この分野の研究者は、何かトンピに油揚げをさらわれた感じで、やりきれない気持ちになっているのではと思う。しかし油揚げをさらえるのも、アメリカの層の厚さだろう。研究としてはテクノロジーの問題をよく認識して、総合力で新しい考えを出したいい研究に思える。当分この分野は熱そうだ。

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