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9月13日:FGFとうつ病:意外な組み合わせ

2015年9月13日
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私にとっては意外な組み合わせに思えたがうつ病にFGFを始めとする増殖因子が関わっていることが注目されているらしい。例えば発生学では頻繁に使われるFGF2がうつ病患者さんで低下しており、抗うつ剤の治療により正常化するらしい。今日紹介するミシガン大学からの研究はうつ状態を誘導するFGFの話で、「Fibroblast growth factor 9 is a novel modulator of negative affect (FGF9は新しい情動の抑制作用分子だ)」をタイトルに惹かれて読んでみた。論文は米国アカデミー紀要のオンライン版に掲載された。うつ病で低下するFGF2などと比較したとき、FGF9が逆の振る舞いをする点に興味を持ったようだ。まず脳バンクから死亡したうつ病患者さんから脳組織を集め、海馬での発現量を調べると予想通りうつ病患者さんでは3割程度発現量が上がっている。人間での研究はここまでで、あとはストレスにさらすことで誘導したラットのうつ病モデルを使って、1)うつ状態が誘導されるとFGF9が上昇すること、2)脳内にFGF9を注入するとうつ状態に似た症状を示すこと、3)レンチウイルスを用いるsiRNAによるFGF9ノックダウンによりうつ状態を改善できること、4)このウイルスは主にニューロンに感染しており、効果はグリア細胞ではなくニューロンを介している、と結論している。ただ、紹介しておいて申し訳ないが、雑な3段論法を多用して結論を導く悪い論文の典型に思える。まずせめてこれまでFGF2と関わることが知られる抗鬱剤投与との相関を調べてほしかった。また、ニューロンが原因細胞であることを、1)レンチウイルスでFGF9を抑制できること、2)それによりうつ状態が改善すること、3)ウイルス感染が認められる細胞はニューロンが多いことを組み合わせて結論している論理はあまりにも雑な印象を受けた。この論文は著者自身がコミュニケーションしており、厳しい査読は受けていないのだろう。7月に投稿して8月に受理されている。米国アカデミー紀要と言ってもこういう場合は、「意見論文」とタッグをつけて欲しいと思う。論文の査読の重要性を理解することができる。うつ病はほとんどの先進国で深刻な問題になっている。もしFGFのように緩やかな時間スケールで働く分子標的が見つかれば、治療への糸口がえられること間違いない。だからこそ、厳密な研究が必要なことを研究に携わる人は肝に銘じるべきだと思う。昨日紹介した論文に興奮しただけに、この落差には驚く。

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