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9月19日:心筋細胞の再生の切り札?(9月16日号Nature版掲載論文)

2015年9月19日
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心筋梗塞は発作直後の死亡率が高い恐ろしい病気だが、命を取り留めることができても、一度死んでしまった心筋細胞は再生できず、機能の一部を失った心臓で残りの人生を送らなければならない。このため心筋の再生は、再生医学の最重要課題の一つになっている。魚類や両生類に見られる再生が哺乳動物ではなぜ起こらないのか、心臓にも骨格筋と同じような自己再生する幹細胞は存在するのか、再生がおこるならその増殖シグナルは何か、などの課題に対する挑戦が続けられている。今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は基礎的にも臨床的にも全く新しい可能性を開くのではと期待が持てる研究で9月16日号のNatureに掲載された。タイトルは「Epicardial FSTL1 reconstitution regenerates the adult mammalian heart(心外膜のFSTL1を回復させると大人の心筋を再生させる)」だ。このグループは大人の心筋内にも自己再生可能な幹細胞が存在し、その増殖に心外膜が関わっているという可能性について研究を行っていたようだ。この論文ではまず、心外膜細胞が心筋細胞の増殖を促進すること、この効果が心外膜から分泌される分子によることを、ES細胞から誘導した心筋細胞で明らかにした上で、この分子をマトリックスに混ぜて心臓に貼ることで心筋梗塞後の心筋再生治療に使えることを示している。次に心外膜細胞上清に分泌される活性分子の探索を行い、Folistatin-like(FSTL1)と呼ばれていた分子こそが心外膜細胞が分泌する心筋再生を誘導する分子であることを突き止める。このリコンビナント分子を大腸菌に作らせ、これをマトリックスに加えて心臓に貼ると、心筋再生を促すことができる。また試験管内の実験系でもリコンビナントFSTL1は心筋の増殖を誘導する。最後に、ヒトの心臓に近いブタ心筋梗塞モデルでも心筋再生を誘導することができる。これらの全臨床実験の結果を見ると、FSTL1が今後心筋梗塞の急性期を狙った細胞治療に有望な分子であることが結論できる。一方基礎医学的にも面白い分子だ。まず、胎児心臓発生時は心臓全体で発現しているが、大人になると発現が心外膜に限局される。ところが心筋梗塞を起こしてやると、また発現が心筋に移行する。一見理にかなっているように見えるが、大腸菌に作らせて外から加えると強い心筋再生作用が観察できるFSTL1が心筋で発現しているなら、がなぜ心筋は再生できないのかという疑問だ。この研究では、心筋細胞ではFSTL1の糖鎖修飾が行われることで、再生誘導シグナルが失われ、代わりに心筋保護作用が現れるためではないかと結論している。これについてはまだまだ研究が必要だろう。特にこの分子について、心筋再生の起こる動物と、起こらない哺乳動物を比べることは面白いと思う。もし哺乳動物だけで心臓再生作用を抑えるFSTL1分子の糖鎖修飾が起こったなら面白いシナリオがかけるのではないだろうか。期待したい。

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