9月26日:ガン免疫のチェックポイント治療効果を予測できるか?(Scienceオンライン版掲載論文)
2015年9月26日
私たちの事務所で日本ガン楽会の中原さんが定期会合を持っておられるが、残念ながら私の時間の都合がつかず、いつも付き合えず申し訳ないと思っている。事務所で、日本ガン楽会の会合に同席させてもらっているメンバーから聞くと、最近はPD1抗体などのガン免疫のチェックポイント治療がやはり話題になっているようだ。ただ多くの患者さんが、抗PD1抗体を、他の標的薬剤と同じように考えられているのが気になると聞いている。実際には、この治療はガンを直接叩くのではなく、ガンを叩いている免疫機能を高めることで、間接的にガンを抑える治療で、一度このことを皆さんに伝える機会が必要だと思っている。直接ガンを叩くわけではないので、この治療が効果を持つかどうかは、ガンに対する免疫が成立しているかが鍵となる。もし成立していない場合、この治療は全くガンに効果がないだけでなく、逆に体内の免疫反応を高めて自己免疫病を発症させてしまう副作用がでる心配がある。したがって、できればチェックポイント治療を行う前に、ガンに対する免疫が成立していることを確かめるのが重要な課題になっているが簡単ではない。今日紹介する米国ハーバード大学と独デュイスブルグ大学の共同研究はガンで起こった遺伝子変異とガンの周りの組織の遺伝子発現から、チェックポイント治療の一つ抗CTLA4治療の結果予測の制度をあげられないか調べた研究でScience Express (オンライン先行公表)に掲載された。タイトルは「Genomic correlates of response to CTLA4 blockade in metastatic melanoma (転移性メラノーマに対するCTLA4阻害治療反応性と相関するゲノム要因)」だ。この研究では110人の患者さんのメラノーマ細胞をバイオプシーで採取し、たんぱく質に翻訳される全遺伝子の配列を調べ、その中からガン抗原として働いている可能性のある突然変異をリストしている。また40人の患者さんについては、発現しているRNAを調べ,ガンに対する免疫反応の状態も判定しようと試みている。ゲノム検査の後、CTLA4阻害治療を行い、2年目までの再発率、生存率と相関するゲノム要因を調べている。読んだ感想としては、正直まだまだ完璧な予想には程遠いと言わざるを得ない。まずこれまで言われていたように、アミノ酸の配列が変化する突然変異が多いガンほどチェックポイント治療が効く確率が高い。さらに、この突然変異が患者さんのHLA分子に結合してガン抗原として働き得ると計算ではじき出した突然変異の数と治療の効果も強い相関がある。すなわち突然変異が多いほどガン抗原ができている可能性がある。ただ、突然変異が多いのに効果がない例や、その逆もあるので、これだけで決めるわけにはいかない。このようにガンのゲノム上の突然変異だけからガン抗原の候補をリストしても、実際にその突然変異がガン細胞で十分発現しているか調べることも重要なことも示している。こうしてリストした発現の高いガン抗原候補の中から、複数の患者さんで共通に見られる抗原があるか調べると、メラノーマ共通の抗原と特定できるものはなく、結局ガンごとに違った抗原が免疫を誘導していると結論している。最後に、キラー活性が存在するか、チェックポイント分子が発現しているかなどを組織の遺伝子発現から免疫成立状態を調べ予後との相関を調べると、これまで言われていた通り免疫反応の形跡があるとCTLA4阻害の効果が見られるという結果だ。結局、共通のガン抗原がある確率は低く、個々のガンや患者さんの状態の総和として免疫反応が成立しているという結果になっている。今年4月、メラノーマの全遺伝子を調べ、その中からメラノーマに起こった突然変異の中からガン抗原として働いているペプチドを同定し、それを免疫することでメラノーマに対する免疫反応を誘導してガンを抑制することに成功した研究を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/3176)。今回の結果も、結局このような究極の個別化医療が一番望ましいという結論になったように思える。とは言え、突然変異からガン抗原候補がリストでき、組織の遺伝子発現から免疫反応の形跡を検出できるなら、やはりメラノーマの患者さんの治療前に、ゲノム検査をやる意味は大きいのではないだろうか。今我が国では、効いた・効かない、副作用が出た、出ないといった結果ばかりが強調されているが、我が国発の治療も含まれる分野なら、ぜひゲノム検査を組み合わせて効果予測を確実にするための検討も進めて欲しいと思う。
PD-1を、標的薬剤と同じように考えているわけではありませんが、PD-1は、まだまだ研究の初期段階だと考えています。何より超高価な費用が掛かることからも標準的ではないからです。また、新たに重大な副作用の報告も出始めています。免疫には様々な働きがあり、がん細胞が免疫の働きを阻止する「カギ」を作ったとしても、他の免疫作用に影響があるかもしれないとも考えています。
機会があれば、西川先生から直接にお話をお伺いしたいと
望んでおります。
中原さん。実験的段階を越して使われています。当然自己免疫は副作用として出ます。一度月曜か金曜日に会合を持ってください。話します。