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9月29日:レプチンの新しい作用(9月24日号Cell掲載論文)

2015年9月29日
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遺伝的肥満マウスob/obの原因遺伝子としてクローニングされたレプチンは、ギリシャ語の「満腹:レプトス」から名前が付けられ、そのまま日本語にすると満腹ホルモンになる。脂肪細胞で作られ、脳血管関門を超えて中枢神経に働き、満腹感を更新し空腹感を抑える肥満に悩む現代には理想的な作用を有している。さらに、レプチンは神経系を介して、褐色脂肪細胞を活性化させ脂肪を燃やし、自律神経を介して白色脂肪組織で脂肪を融解する代謝効果ももち、抗肥満ホルモンとして理想的性質を持っている。ただ他にも様々な生理作用を有しており、肥満の特効薬として服用するというわけにはいかず、レプチンの下流で働くシグナルを調べ、それを標的にしようと研究が進んでいる。今日紹介するポルトガル、グルベキアン研究所からの論文はレプチン刺激が白色脂肪細胞での脂肪融解に繋がる経路を明らかにした研究で9月24日号のCellに掲載された。タイトルは「Sympathetic neuro-adipose connections mediate leptin-driven lipolysis(交感神経と脂肪組織の結合がレプチンによる脂肪融解に関わる)」だ。この研究以前にも、レプチンが白色脂肪組織と直接神経的に結合している交感神経を刺激し、脂肪細胞での脂肪融解を誘導する可能性は示唆されていた。ただ、証拠は間接的で、様々な新しい方法を組み合わせてこの仮説を証明したのがこの研究だ。まず脂肪細胞と交感神経が直接結合しているかどうか調べるため、脂肪組織と交感神経との直接結合について組織学的に調べている。これまでも同じ実験は行われているが、この研究では脂肪組織全体を取り出し、立体組織の中まで見やすいように透明化し、組織全体をそのまま染色して、実際に脂肪組織に交感神経が接合していることを示している。次に、生きたまま脂肪組織の交感神経を観察する方法を用いて約8%の脂肪細胞に神経端末が結合していることを確認している。次に、やはり流行りの光遺伝学を用いて脂肪組織を支配する交感神経を持続刺激し、光による交感神経興奮の維持により刺激された側の脂肪組織が消失することを示している。最後に、脂肪組織と結合する交感神経を切断したり遺伝子導入により除去することで、レプチンの脂肪融解効果がなくなり、この効果は交感神経が分泌するノルエピネフリンやエピネフリンを介して脂肪細胞に伝わっていることを明らかにしている。研究自体は驚きというより、堅実で、最新の技術を使ってこれまでの仮説を証明するというスタイルの論文だ。ただずいぶん昔、まだ研究インフラが整っていないグルベキアン研究所でポルトガルの大学院生の集中講義に携わった私としては、この研究所がアイデアで勝負するだけではなく、最新のテクノロジーを使って研究を行うところまで発展したことを知って特に感慨が深い論文だった。

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