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9月30日:気候変動とマルハナバチの形態変化(9月25日号Science掲載論文)

2015年9月30日
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2日前に進化の時間過程を目撃することは難しいと述べたばかりだが、短い期間で形質の変化を観察できるかどうかは、形質に必要な変異の数(起こりやすさ)、種の増殖力、そして選択圧の強さにかかっている。最も有名な例が、19世紀産業革命真っ只中のロンドンで街が黒い煤煙で覆われるに従って、白い蛾の一種が急速に真っ黒な蛾に変化したという観察だ。これは、それまで鳥から身を守る保護色として機能していた白い色が、環境が煤けて逆に目立つようになり、身を守るためには黒い羽を持つ変異体が有利になり、あっという間にすべての種が真っ黒になったという記録だ。驚くべきことに、大気汚染が解決した現在では、この蛾の羽は白色に戻っているようだ。このように、場合によっては昆虫の形態は環境の変化を反映できると期待できる。今日紹介するニューヨーク、サニーカレッジからの論文は、ロンドンの蛾と同じ現象をミツバチに似たマルハナバチで観察した研究で9月25日号のScienceに掲載された。タイトルは「Functional mismatch in bumble bee pollination mutuallysm under climate change(マルハナバチの受粉の相互依存性が気候変動でミスマッチを起こした)」だ。この研究でまず驚くのはロッキー山脈に生息するマルハナバチの標本が何年もにわたって保存されていることだ(実際にはわが国を含めどこでも行っているのかもしれない)。この研究のきっかけは、マルハナバチが蜜を吸う舌の長さが、1955−1980年に採取したハチと、2012−2014年採取したハチでなんと24%も短くなったという発見にある。このハチの舌の長さは、生息地に分布する花の花冠の長さに適応していたことが知られていた。もし舌が短くなると、これまでペアを組んでいた花との相互関係が崩れることになる。そこで、ペアを組む花の方が変化したのかを、現在ハチがどの花の蜜を吸うのか観察して調べると、ペアを組んでいた花側が変化したのではなく、ハチの方が様々な花の蜜を吸うようになったことがわかった。すなわち行き着いた結論は、ロッキー山脈での花の数が減って、これまでペアを組んでいた花だけではハチが暮らせなくなり、様々な花の蜜を吸えるよう舌を短くしたようだ。ロッキー山脈での花の分布を調べてみると、たしかに3800m以下では花全体の数が半分以下に減っている。その間平均気温は2度近く上昇していることから、温暖化の影響でロッキーの花の数が急速に減り、その結果ハチの方もこれまでペアを組んでいた花に特化しては生きていけないため、舌を短くして多様な花の蜜で生きるよう変化したという結論を導き出している。悲しいことに、昔も今も、結局工業化により昆虫が強い選択圧にさらされ、形態の変化を余儀なくされているのがわかる。しかし舌が長ければどんな花にでも対応できるように思えるのに、結局無駄を省いて舌を短くして適応していることを知って、素人の私は舌を巻いた。

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