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10月11日:パーキンソン病とインターフェロンβの意外な関係(10月8日号Cell掲載論文)

2015年10月11日
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一部の家族性例を除いてパーキンソン病の原因はよくわかっていないが、黒質のドーパミン産生細胞の進行的変性が共通の病理的性質として見られる。この時神経細胞にαシヌクレンというタンパク質が沈殿して大きな塊になったレビー小体が形成される。レビー小体は他にもアルツハイマー病の一部や多系統萎縮症など神経変性疾患にも見られることから、これらをひとくくりに「シヌクレン症」としてみていこうという考えの研究者も多い。レビー小体の構造的特徴からおそらくオートファジー活性が低下することで細胞内でのタンパク質の掃除がうまくいかず、沈殿してしまうと考えられてきたが、この異常が起こってくる原因については全くわかっていなかった。その意味で今日紹介するデンマーク・コペンハーゲン大学からの論文は神経変性を起こす引き金について重要なヒントを与える、私には画期的な研究に思える。タイトルは「Lack of neuronal IFN-β-IFNAR causes lewy body and Parkinson’s disease like demintia (インターフェロンβ—インターフェロンα受容体シグナルの欠損はレビー小体形成とパーキンソン病様痴呆を誘導する)」だ。インターフェロンβ(IFNβ)はウイルス感染に対する抵抗の第一線として研究されているが、マクロファージへの刺激を介する抗炎症作用は多発性硬化症の治療に用いられている。この研究ではIFNβ欠損マウスの脳機能を調べて、週令が進むと記憶や運動障害が見られる様になり、病理的に神経変性が起こることを突き止めた。さらに、変性神経細胞にレビー小体が形成され、神経自体も多くの変性に関わる遺伝子が発現している。そこで、IFNβ欠損によりオートファジー機構の機能異常が起こり、レビー小体形成から神経変性が起こる可能性について細胞レベルで検証し、IFNβが欠損するとオートファジーの後期課程が障害を受け、それがレビー小体形成へとつながることを明らかにした。最後に、αシヌクレンの突然変異を持つパーキンソン病モデルマウスの片側の脳にレンチウイルスベクターを使ってIFNβを導入すると、ウイルスを導入した側だけ変性が抑制され、ドーパミン産生細胞が残っていることを突き止めた。これが本当なら画期的な発見で、多くの神経変性性疾患の進行を遅らせることが可能になる。IFNβはすでに多発性硬化症に使われているし、またパーキンソン病の遺伝子治療にレンチウイルスベクターを用いることもすでに臨床例がある。IFNβの性格上全身投与より、やはりウイルスベクターによる局所的遺伝子治療の方が患者さんの負担は少ないだろう。今回の研究では、ベクターを投与した側だけに効果が見られており、これも大きな朗報だと思う。今後期待して注目していきたい結果だと思う。
  1. Okazaki Yoshihisa より:

    1:IFNβは多発性硬化症に使われている
    2:パーキンソン病の遺伝子治療にレンチウイルスベクターを用いることもすでに臨床例がある。
    3:IFNβの性格上全身投与より、ウイルスベクターによる局所的遺伝子治療の方が負担は少ない。
    4:今回の研究では、ベクターを投与した側だけに効果が見られている。

    →またまた、遺伝子治療の可能性を感じさせる論文でした。

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