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10月12日:REM睡眠を誘導する(Natureオンライン版掲載論文)

2015年10月12日
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私自身は脳研究の経験は全くないが、それでも睡眠の研究は難しいだろうなと思う。まず睡眠という行動には「疲れたから寝る」と言った受身的な印象があり、ポジティブな指標を見つけにくいだろうと思うし、またあまりに多くの脳領域が組み込まれているため、局在論的な研究手法が使いにくいと思ってしまう。そして何よりも、睡眠のスウィッチを入れたり切ったりして実験することは簡単でない、と思っていたら、REM睡眠についてはon/offを自由に誘導できるようにして、REM睡眠の行動分析を可能にしようとする研究が行われていた。今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文はREM睡眠を光遺伝学で誘導できるようにして、それに関わる神経回路を明らかにした研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Control of REM sleep by ventral medulla GABAergic neurons (延髄腹側部GABA作動性神経によるREM睡眠の調節)」だ。タイトルにあるREM睡眠とは、rapid eye movement睡眠の略で、睡眠中なのに目を急速に動かす一方、筋肉は弛緩している状態をさす。一種睡眠中の覚醒状態で、この時期に夢を見ていると考えられてきた。REM睡眠を中断して活動していた神経を調べる研究から、延髄の腹側部(vM)がREM睡眠と相関するのではと推察されていたようだ。この研究では、光遺伝学を使って光でこの神経細胞を興奮させられるようにしてREM睡眠を誘導できるか検討し、睡眠中このvMのGABA作動性神経を興奮させると、REM睡眠に移行し、またREM睡眠を延長できること、一方覚醒時に同じ細胞を刺激しても何の影響もないことを明らかにした。一方、この部位の神経興奮を抑制すると、REM睡眠が起こらない。すなわち、睡眠中にREMかnon-REMかを決める中枢としてvMが働いていることを示している。次に、この実験で光で興奮するようにした神経の活動を正常状態で記録すると、当然REM睡眠中に興奮するのだが、覚醒時には食事中と毛づくろいの最中に一番興奮する神経であることも分かった。この意味についてはこれからの研究が必要だが、食べる時に興奮する神経がREM睡眠を誘導できるとは素人目には面白い。最後に、vMの前部にあるGABA作動性神経が中脳の腹側部に、後部にある神経が脊髄神経へと投射していることを確認し、この神経の興奮が脊髄では筋肉弛緩と関わり、一方中脳のREM睡眠を抑制する部位と拮抗回路を形成することで、REM睡眠を維持していることが分かった。なぜこの部位が睡眠中に興奮しREM睡眠に移行するのか、あるいは覚醒状態がどう睡眠プログラムを凌駕できるのか(私の場合しばしばそうでないことがある)、さらに同じ神経の興奮が覚醒時と睡眠時で全く違った状況で見られることなど、未解決の問題は多い。しかし睡眠時ではあっても、ロボットのように二つの状態を自由に移行させられる実験系ができたことは、この領域の大きな発展につながると期待される。こんな成功をみると、間違いなく人間でこれを利用したいと思う人たちが出てくるはずだ。今からその可能性と問題について議論を初めたほうがよさそうだ。

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